「世界最大のテクノロジーの祭典」と言われるCES(元々はコンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。年初にアメリカ・ラスベガスで20万人近くを集める巨大イベントだが、昨年はコロナ禍でオンライン開催に。今年はオンラインと並行してリアル開催を復活させるというので、プライベートで「エィ、ヤッ!」と行ってみた、コロナ検査を受け、ガラガラの飛行機に乗って。
"公開空地"がCESの神髄?
「すいている!」初日の会場も。ここ数年のCESで圧倒的存在感だった中国からの人はどこへ? それもそのはず、参加者は主催者発表で約4万5,000人と前回の4分の1、グーグルやマイクロソフトなど大所がオミクロン株拡大で直前に出展を取りやめ、出展企業は2,300に半減、会期も1日短縮され1月5日から7日までの3日間になった。
<"公開空地"状態の韓国LG>
一番印象的だったのは、これまで一番目立つところに陣取り、巨大画面で来場者をアッと言わせてきた韓国LGだ。今回は広いスペースが、なんと「公開空地」状態。イスと掲示板がいくつか置かれ「見たい人はスマホでQRコードを読み取って!」。アプリがダウンロードされ新製品、新技術を紹介する仕掛けだ。対照的だったのが韓国サムスンでこちらは従来型リアル展示でズラリと最新製品が並ぶ。日本勢でもパナソニックがQRコード、ソニーがリアル展示と分かれた。
開幕のセッションで主催団体のゲイリー・シャピロ代表CEOは「コロナ禍に遭遇した時に技術の進歩がなかったらどうだったろうか。オンラインでビジネス、仕事が可能になった、教育も受けられる、遠隔医療も。家にいてもエンターテインメントを楽しめる」というわけで"公開空地"、オンラインでの参加は、ある意味、技術進歩をリードするCESの神髄なのだろう。
「次世代地デジ」はネットと組んで
日本では地上波での4K放送実現に向けて実験が進んでいるが、アメリカではATSC3.0という方式で2020年から徐々に次世代地デジ「ネクストジェネレーションTV」が実用放送を始めている。CESでも目立つ場所にブースを構え、セミナーも行った。
<次世代地デジ 左に配信動画のおすすめを表示>
アメリカ版現行地デジは高画質化と受信状態改善が主眼だったが、「次世代」では4Kも放送できる、音質も向上する、車でも受信できる、データ放送も、だ。なかでもインターネット連携が最大の「売り」で、伝送方式も従来のテレビ型ではなく、インターネットと同じ信号方式のIP方式だ。なのでネット連携で視聴者の嗜好にあったCMにテレビごとに差し替えるとか、リアルタイムで見ている番組の横に局からお薦めの配信動画の一覧を表示し簡単に飛んでいけるようにして、局は収入を増やすこともできる、という。現行放送を置き換えるのではなく、「やりたい放送局がやる」なので放送局にもメリットがなければ、ということらしい。すでにアメリカ国内では45地区で放送が開始され、人口の40%が受信可能エリアに入っている(実際の世帯普及率ではない)。対応テレビは出荷台数ベースで2021年が300万台、今年は450万台の予想。海外ではピョンチャン冬季五輪に先駆け17年にスタートした韓国に続いて、ジャマイカが今年開始予定、地デジでは日本方式を採用したブラジルが今回はこの方式の導入を検討している、と説明してくれた関係者は意気軒高だった。が、展示ブースを訪れている人の数は......だったのが気になった。
「テレビ主役」からクルマ、メタバース......
韓国、日本、中国メーカーが大画面のハイビジョン(HD)テレビを賑々しく並べ、"CESの主役はテレビ!"の感があったのは10年ほど前。その後、主役は「テレビ以外」に移ったと感じる。その先の一つがクルマだろう。今回の一大トピックスは「ソニー、クルマに参入へ」。2年前にもクルマを出品したが「自動車業界参入」は明言しなかった。今回は吉田憲一郎社長自らが新会社を作り、参入を検討していく、と明言した。確かに電気自動車、自動運転と、クルマはエレクトロニクスの塊になり、ソニーの領域と重なる部分は多い。車としての基本部分はオーストリアの会社と組んでいる。何よりの注目点は、「自動運転でヒマになるドライバー」に対して、ソニーは得意とするどんなエンタメ、情報空間を提供するのか? だ。コンテンツは5Gのネットから到来すると説明されているが、映像音声コンテンツ作りのプロである放送事業者にとっては新たな活躍の場になるかもしれない。
<ソニーはまるで自動車メーカーのよう>
もうひとつの中心は「メタバース」。リアル行動、体験に代わり、仮想空間、ネット空間でサービスを展開する。コロナ禍でリアル移動や対面コミュニケーションが制限され注目度が増した。ただこれを単に「ゴーグル型ヘッドセットを付けて没入するゲームの世界」に終わらせるのではなく、ショッピングや旅行に行ったような体験ができる等々、活用範囲を拡げ、実世界でのビジネスにつなげてくことが課題だろう。放送事業者は、ここでも映像コンテンツ作りや地元産業と組んでどう関わるかが課題、ビジネスチャンスがあると感じた。
驚きの「新交通」
幕張メッセの数倍ある広い会場に「新交通システム」がお目見え。といっても「ゆりかもめ」のような自動運転の電車ではない。普通の地下道路トンネルが2本。走っているのは自動運転対応の電気自動車テスラ。テスラで大富豪になったイーロン・マスク氏の会社が54億円をかけ1年で掘った。開発費、維持費の高い電車仕様のシステムを作るより、市販のクルマが賢くなり、排気ガスも出さないのだから、それを活用したらいい、という合理的な考えだ。「将来はラスベガス市内に広げるんだ」と自動運転の監視に乗っているスタッフは自慢げに話してくれた。真っ白にライトアップされたトンネル内を快走する車内で、ハードもソフトも自己完結型で考えがちな放送事業者はいろいろ考えさせられた。
<自動運転対応だが係員は乗っている>
"技術立国ニッポン"に帰ってきた
駆け足の旅から羽田に帰国し、コロナ検査の結果と「待機」先の施設が決まるまで5時間待って、10日間の「待機」期間がスタートした。検疫所指定ホテルでの最初の3日間は3食の弁当を含めて公費だが、部屋の外に出ることはもちろん、酒たばこも禁止。部屋はWi-Fiがつながり、テレビも見られる。しかし新聞は配られない。誰も文句を言った様子もないので、今のメディア環境はそんなものかと納得しながらリモートワークにいそしんだ。再度の検査で陰性が確認され、自費待機のビジネスホテルでさらに4日過ごし、新幹線、飛行機の利用も禁止なのでレンタカーで大阪に戻り「自宅待機」した。この10日間、インストールを求められたスマホアプリを通じて毎日複数回、居場所確認(スマホの位置情報とリンクされている)と本当に待機場所にいるのかの確認に30秒のビデオ撮影をAIが求めてくる。CESでは欧州やアジア他国のスタートアップ(ベンチャー企業)の方が目立っていたが、こういうシステム作りは、ニッポンは得意だな、と妙に安心した。
<AIが求める30秒のビデオ撮影>
"テクノロジーはコミュニケーションの新しい手段を生み出し、それによって私たちは自分の考えを話し、常識に疑問を投げかけ、自分の住む地域でも、世界中でも新しいコミュニティーを築くことができる。事実、テクノロジーは私たちを団結させることができる。"(ゲイリー・シャピロ代表CEOのスピーチから)