米FOX、ディズニー傘下のESPN、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)は、スポーツに特化した新たなライブストリーミングサービスを合弁で立ち上げると2月6日に発表した。それぞれにスポーツ中継を手がける大手3社が初めて手を組む大規模プラットフォームとあって、米メディア界に大きな衝撃が走っている。
▶新たなアプリでコンテンツを集約
サービスの名称などは未定。発表によると新たなアプリを開発し、3社の全14リニアネットワーク(ESPN、ESPN2、ESPNU、SECN、ACCN、ESPNEWS、ABC、FOX、FS1、FS2、BTN、TNT、TBS、truTV)が放送・配信権を持つすべてのスポーツと、ESPN+のコンテンツが視聴できるようになる。NFL(アメフト)、MLB(野球)、NHL(アイスホッケー)、NBA(バスケットボール)、大学のメジャースポーツ、テニス、サッカー、ゴルフなどが1つのプラットフォームに集約されるというわけだ。
▶実質経営はディズニー?
3社の全コンテンツは新たな合弁会社に各社が非独占でライセンスする。合弁会社の所有権は三等分(33.333%ずつ)し、各社から選ばれた経営チームがブランディングや価格設定などを決定していくという。収入源はユーザーからの契約料と広告がメインとなる。
ただし、実質的にはディズニーが経営の半分をコントロールするのではないかとウェルズファーゴ証券は分析。試算によると、全コンテンツの52%をESPNが提供し、3社が全スポーツリーグに支払う放送権料の56%はESPNが負担することになるからだという。
▶視聴者の負担、広告主の反応
市場調査各社の予測によれば、ユーザーの契約料は月40―50㌦。この額を支払ってでも契約するコアなスポーツファンは、ここでは見られないスポーツコンテンツをNBCUのピーコックとParamount+で補うため、合わせて毎月約60―70㌦程度の負担になるという。
今年のスーパーボウル直前に発表された今回の計画。米アドエージ誌によると、広告主らには寝耳に水だった。広告費のベースとなる視聴者数やインプレッションなど、リニアと配信をまたぐ測定方法や尺度が複雑化することに不安を隠しきれないブランドもあった。また、「熱狂的なスポーツファンはすでに複数のプラットフォームに加入しており、新たなサービスに出費するだろうか」といった声も。
▶ターゲットは"コードネバー"層
このニュースを受け、それぞれが本業とするリニア事業への懸念と憶測も飛び交っている。これに対してFOXのラクラン・マードックCEOは、発表の翌日に行われた同社の四半期報告で「新たなプラットフォームがリニア事業を侵食することはない。むしろ、リニアテレビこそFOXの根幹である」と強調。「ケーブルのバンドル以外でスポーツファンのニーズを満たすサービスはなかった。これで全く新しいスポーツファン、すなわちコードネバー層(ケーブル・衛星テレビと有料契約したことがない若者層)にリーチすることができる」と話したという。
ディズニーのボブ・アイガーCEOも、同じく発表翌日の四半期報告で「コードカットをいたずらに促すものではない。今回のベンチャーは、すでにコードカットした層とコードネバー層をターゲットにしたものだからだ」とマードック氏と同様の発言をしている。
WBDのデービッド・ザスラフCEOも「このベンチャーが業界に一石を投じ、改革を促し、それによって視聴者の選択肢を増やすことにつながれば」と、より大局的な期待を表明した。
なお、FOXのマードックCEOは、今回のスポーツ配信サービスは創設3社の限定で、他社を招き入れる予定はないとも明言。売却がささやかれるパラマウントグローバル(傘下にCBSほか)や、スポーツコンテンツの配信移行でコードカットが進むコムキャストのNBCユニバーサル(傘下にNBCほか)は対象になっていない。
▶どうなる!? 米スポーツ中継
ディズニーのアイガーCEOはさらに、現在ケーブルのESPNで放送しているコンテンツをアプリで見られるようにする配信版を予定どおり2025年に開始することも発表した。3社による新たな配信サービスとは異なるESPNコンテンツをフィーチャーし、明確な差別化を図っていくという。配信版ESPNは、Disney+のアプリに拡張機能として追加されるようだ。
今回の3社連合がケーブルや衛星テレビ、DAZNなど既存のスポーツ配信サービスにどのような影響を及ぼし、その秩序はどうなるのか――。折しも、どのスポーツがどのチャンネル/配信サービスで見られるのか、視聴者の混乱も極まっている 。スポーツ中継がリニアから配信へと本格的に移行するのかどうかも含めて、目が離せそうにない。