1995年1月17日午前5時46分に発生した阪神・淡路大震災。マグニチュード7.3の大地震は国内で観測史上初の震度7を記録し、関連死を含めて6,434人が亡くなりました。被災地の民放各局は本社や社員自身が被災した中で、情報を発信しました。その大震災から今年で30年。民放onlineでは、兵庫県域局や在阪局の方に当時の振り返りや経験の伝承などについて寄稿いただきました（まとめページはこちら）。
今回は、阪神・淡路大震災をきっかけにスタートしたMBSラジオ『ネットワーク1・17』でプロデューサーを務める毎日放送の亘佐和子さんです（冒頭画像は震災30年のリポートを行った1月19日の放送回、キャスターの西村愛さん㊧と筆者㊨）。
1995年1月17日早朝、私は神戸市内の自宅で、倒れてきた家具の下敷きになりました。当時、入社2年目の駆け出し記者。両親に救出されるまでの間に考えたのは、「関西でこれだけ揺れたのなら、首都圏は壊滅しているにちがいない。東京に取材に行かなければ」ということでした。地震は東日本で起こるものと思い込んでいて、まさか自分が生まれ育った神戸の街を震度7の揺れが襲うなんて、考えたこともありませんでした。多くの人が根拠なく「関西に大きな地震は来ない」と思っていました。
『ネットワーク1・17』（日、17:15～17:40）は、この阪神・淡路大震災の反省から始まった番組です。地域の放送局として、地震の危険性をもっときちんと報道していれば、これほど多くの犠牲者を出さずにすんだのではないか。MBSラジオは、1995年4月、被災した人たちに寄り添い、必要な情報を伝えようと、手探りで番組をスタートさせました。
築いた人脈が大きな力に
それから30年、キャスターもスタッフも当初とはすっかり入れ替わりましたが、何度か訪れた打ち切りの危機を乗り越え、番組は続いています。通算放送回数は1,477回（2025年1月末時点）になりました。「震災の記憶を語り継ぎ、次なる災害への備えを呼びかける」というコンセプトで、多彩なゲストに出演してもらい、各地で起こる災害の被災地の状況、防災や減災に役立つ情報を伝えています。私が番組に関わるようになったのは2011年、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故が起こった年です。
「あー、すごい津波だ。家とか船とか、流されている！」
東日本大震災の発生から50分後に入った電話リポートは衝撃でした。津波の到達を生放送で実況してくれたのは、宮城県気仙沼市に住む「災害リポーター」。元消防士で冷静な彼の声は震えていました。家族の安否もわからないまま伝えてくれたのです。『ネットワーク1・17』が築いてきた人脈は、いざというときに大きな力になります。
その後も、熊本地震、北海道胆振東部地震、能登半島地震と、最大震度7を記録する大地震が続いています。2024年8月には初めて、「南海トラフ地震臨時情報（巨大地震注意）」が発表され、緊張が走りました。地震だけでなく、地球温暖化の進展とともに、毎年のように水害も発生しています。「ネタがなくて困った」などということは一度もありません。
番組が伝えるメッセージ
番組の放送開始から30年となる2025年は、『ネットワーク1・17スペシャル～能登半島地震1年』の特別番組で幕を開けました。元日の16時から17時30分まで、ちょうど地震が発生した時間帯の生放送です。自身が被災しながらも炊き出しボランティアを続けた輪島市のフレンチシェフの池端隼也さん、神戸から能登に通い続ける若者ボランティア「やさしや足湯隊」のメンバー、そして防災研究の第一人者の室﨑益輝さん（神戸大学名誉教授）が出演。亡くなった方を追悼するとともに、なぜ能登の避難所は30年前の阪神・淡路大震災の頃とあまり変わらず劣悪な環境だったのか、なぜボランティアが少ないのか、なぜライフラインの復旧や公費解体が遅れているのか――など、この1年間で見えたさまざまな課題を考えました。
1月は、レギュラー放送枠で「阪神・淡路大震災30年」のシリーズをオンエアするとともに、過去の特別番組『ネットワーク1・17スペシャル』3作品を再放送しました。この3本の内容を紹介することで、番組が伝えてきたメッセージを見ていきます。
1本目は2020年に放送した「阪神・淡路大震災25年～満月の夕（ゆうべ）を語る」。ロックバンド「ソウル・フラワー・ユニオン」の名曲「満月の夕」が生まれた阪神・淡路大震災当時の避難所やテント村での出来事を、ソウル・フラワー・ユニオンのボーカルの中川敬さんと、エフエムわいわい理事の日比野純一さんが語りました。言葉やルーツの異なるさまざまな人たちが、厳しい避難生活の中で、ぶつかり合いながらも支え合ったこと。そこで生まれた言葉と優しさの輝き。ヘイトやデマが氾濫する現代に、多くのことを考えさせられます。
2本目は、2022年日本民間放送連盟賞・ラジオ報道番組の最優秀を受賞した『ネットワーク1・17スペシャル～盛土崩壊』。2021年7月の静岡県熱海市の土石流災害が起こる前から、番組では「盛土」に注目して取材を進めていました。阪神・淡路大震災の時に兵庫県西宮市で発生した大規模な地滑りや、東日本大震災で全壊した番組キャスターの仙台市の実家の話から、多くの土砂災害が高度経済成長期の無秩序な開発による「人災」であることを伝える番組でした。
3本目は2023年に放送した「即死の真相～阪神・淡路大震災28年の証言」。番組がスタートした頃からお世話になってきた前述の室﨑益輝さんの「阪神・淡路大震災の死者の大半は圧死で即死と言われているが本当か？ 住宅が倒壊しても、救助が早ければ救えた命があったのではないか」という問いをきっかけに制作した番組です。震災で亡くなった大学生が倒壊した住宅の下で数時間生存していたという証言などを紹介し、一般的に言われてきた「住宅の耐震化」にとどまらない震災の教訓を考える内容でした。
＜「即死の真相」スタジオ写真、右から室﨑益輝さん、筆者、西村愛さん＞
このように、『ネットワーク1・17』のレギュラー放送が土台になり、さまざまな課題を掘り下げた特別番組が制作されました。MBSラジオ全体で取り組んだ阪神・淡路大震災30年プロジェクト「ラジオがとなりに」も、30年間の積み重ねから生まれたものです。
『ネットワーク1・17』は2025年4月で放送30年、7月には放送1,500回を迎えます。関心を持ってくださった方は、番組ウェブサイト（外部サイトに遷移します）をのぞいてみてください。過去の放送がYouTubeやポッドキャストで聞けるようになっていて、2020年4月以降の放送については内容の文字起こしも掲載しています。「節目」とか「記憶継承の限界」とか言われる30年で歩みを止めることなく、31年目、32年目にこそ、阪神・淡路大震災に立ち返って災害を考える番組を届けたいと思います。
【編集広報部注】
MBSラジオの阪神・淡路大震災30年プロジェクト「ラジオが となりに」のウェブサイトはこちら（外部サイトに遷移します）。
また、『ネットワーク1・17スペシャル～盛土崩壊』で日本民間放送連盟賞最優秀受賞時にお寄せいただいた亘さんの受賞のことばはこちらから。
