トランプ新政権で岐路に立つ革新派ケーブルニュース局MSNBC

編集広報部
トランプ新政権で岐路に立つ革新派ケーブルニュース局MSNBC

米国の3大ケーブルニュース局といえば、MSNBCCNNFOXニュース。CNNが比較的中道派なら、FOXニュースは徹底した保守派、MSNBCは逆に徹底した革新派として知られる。11月の大統領選で共和党のドナルド・トランプ前大統領の当選が決まると、民主党のカマラ・ハリス副大統領を支持していたMSNBCの立ち位置が一気に不安定になってきたと米各メディアが伝えている。

折しもコムキャストが1120日、NBCユニバーサル(NBCU)が所有するケーブルチャンネル群を分離・独立させ新会社化する計画を発表し、MSNBCもその対象となった(既報)。今後はチャンネル名の変更や報道方針の転換も予想される。バラエティ誌によると、NBCUから分離・独立後の新会社「SpinCo」のCEOに就任するNBCUのマーク・ラザルス会長は発表の日、看板アンカーのレイチェル・マドーを含む全MSNBCスタッフを集めて状況説明を行ったが、詳細は何も決まっていないと明かした。スタッフからは「これからも古巣NBCUのブランドの下に動けるのか」といった質問が投げかけられたという。

MSNBCの開局は1996年(FOXニュースも同じ年の開局、CNN1980年)。マイクロソフトとNBCのジョイントベンチャーだった(MSNBCの「MS」はマイクロソフトに由来する)。開局当初のストレートなニュース報道から、徐々にスター級のアンカーを起用したオピニオン番組に重点を移していく。マイクロソフトは2005年にMSNBC株を売却し、12年にはオンラインサイトMSNBC.comの株も手放したが、ブランド名はそのまま維持された。

プライムタイムはスターアンカーを前面に押し出したオピニオン番組を編成しているMSNBCだが、昼間のニュースは地上波NBCや経済専門の姉妹局CNBCと情報共有しており、分離・独立後の取材体制にも不安が持たれている。

今年の選挙キャンペーン期間中、特にハリス氏の出馬が決まってからのMSNBCは視聴者数を伸ばし、115日の開票報道でも初めてCNNを上回る大健闘を見せたが(関連記事)、トランプ氏の勝利が決まると一転、視聴者数が激減した。一連の選挙報道に疲れた視聴者が、選挙結果が判明するとケーブルニュースを見なくなるのはお決まりのパターンだが、今年は保守派の局と革新派の局で完全に明暗が分かれた。ニールセンによると、10月の平均視聴者数と選挙後のそれを比べると、MSNBCは選挙後39%減、プライムタイムだけをみると53%減だった。CNNも平均22%減、プライムタイムで43%減。一方の保守派FOXニュースは逆に38%増、プライムタイムは21%増と対照的だった。

こうしたなか、実業家で今やトランプ新政権の重鎮ともいえるイーロン・マスク氏がXの投稿でMSNBC買収への興味をほのめかした。現実的な買収というより、新政権発足後は革新派を抑え込むという威嚇だとみられている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が直ちに「MSNBCはコムキャストのケーブルネットワーク分離・独立の大きな武器。簡単には売りには出さない」とマスクの投稿の可能性を否定。さらに同じ日の1125日、CNNがそのオンラインニュースサイトで「MSNBC買収に興味を持つ富豪はマスクだけではない」と報じている。

CNNによると、革新派の大富豪がすでにMSNBCの買収を申し出ており、それも一人ではないという。詳細は明らかではないが、マスク氏とは逆に革新派のMSNBCを擁護するための買収が提示されているという。同じ理由でその実現可能性は低いとはいえ、分離・独立を前にあちこちから買収案が飛び交う現状からはMSNBCが大きな岐路に立っていることは間違いなさそうだ。

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