米ケーブルテレビ最大手で複合メディア企業のコムキャストは11月20日、傘下のテレビメディア部門であるNBCユニバーサル(NBCU)が持つケーブルチャンネルを分離し、新たな上場企業として独立させる計画を発表した(冒頭画像はプレスリリースから)。NBCUが配信部門のピーコックやテーマパーク事業に専念できるようにするためだとしているが、売却や買収の対象として位置づけるとの見方もある。計画完了には約1年を要するという。コムキャストとしては2018年の英有料テレビ大手Skyの買収、23年のHulu株のディズニーへの売却に続く大規模な組織再編となる。1980年代から米放送業界の中軸だったケーブルテレビが大きな転機を迎えた象徴だと米メディアは伝えている。
新会社の暫定名称は「SpinCo」。NBCUのマーク・ラザルス会長がCEOに、アナンド・キニCFO兼企業戦略EVPがCFO兼COOに就任する。
分離・分社化されるケーブルチャンネルはUSAネットワーク、CNBC、MSNBC、Oxygen、E!、SYFY、ゴルフチャンネル。このほか、FandangoやRotten Tomatoesといった映画チケット販売会社やゴルフコース予約サイトのGolfNow、青少年・アマチュアスポーツの配信プラットフォームSportsEngineなどのデジタルサービスも今回の分離の対象になる。コムキャストによるとこれらを合わせた過去1年間の売上額は約70億㌦(約1兆500億円)。
ただし、人気ケーブルチャンネルBravoは今回の分離に含まれず、25年からはNBCU唯一のケーブルチャンネルとして残ることになりそうだ。地上波のNBCとスペイン語放送のテレムンドも対象外。NBCUのケーブルチャンネルで視聴者数のトップはMSNBC、エンターテインメントではUSAネットワークが筆頭。これら2つは分離し、Bravoを残す理由を米メディアは人気リアリティ番組を多数抱えるラインアップがピーコックの新規契約者増に寄与しているからと分析している。
コードカットが加速度的に進むなど近年苦戦を強いられるケーブルテレビ事業。その分離・独立を視野に入れているのはコムキャストだけではない。ディズニーのボブ・アイガーCEOも23年末、地上波ABCを含むリニア事業の売却をほのめかしている。ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)も配信事業とリニア事業を完全に引き離すことを検討していた。いずれも計画だけにとどまっているのは、これまで培った基盤を持つケーブルテレビ事業は発展途上の配信事業より収益性が高く、それを配信事業の促進に充当しているという現状があるからだという。
こうしたなかでの今回のコムキャストの決断は、将来のテレビ業界を映す鏡ともみられている。ケーブルテレビ事業が利益を上げているうちに手放しておこうとの戦略だ。トランプ新政権の発足とともに25年からはメディア企業の合併ラッシュになる可能性も示唆されており(関連記事)、今後、他のメディア企業が同様の動きを見せることも予測される。