米ケーブルテレビ最大手で複合メディア企業のコムキャストが、傘下のテレビメディア部門NBCユニバーサル（NBCU）が持つケーブルチャンネル群を分離し、新たな上場企業として独立させると発表したのは2024年11月（既報）。それから半年後の5月初旬に新会社の名称が「Versant（ヴァーサント）」に決まった。また、これとは別にCNNを擁するワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー（WBD）も6月初旬に同様の再編計画を発表。米放送業界でケーブル部門の独立・再編の動きが加速している。
VersantにはケーブルニュースチャンネルのMSNBCをはじめ、経済ニュースのCNBC、USAネットワーク、SYFY、E!、ゴルフチャンネルなどNBCU傘下のほとんどのケーブルネットワークが移る。2025年後半に完了する予定で、Versantは引き続きニューヨーク市を拠点を置く。テレビネットワークのNBC、配信プラットフォームのピーコック、ユニバーサルスタジオ、テーマパークと人気ケーブルチャンネルBravoはコムキャスト/NBCUに残る。
広告セールスはNBCUが持つセールス基盤「One Platform」を活用し、今後2年はNBCU側がVersantの広告枠を取り扱う。ケーブルテレビの広告枠だけでなくVersantのデジタルプラットフォームの広告も販売し、ターゲティング広告や視聴データ解析などNBCUのアドテクが新会社の営業面を支える。コンテンツ面でのNBCUとVersantの提携関係は維持され、VersantのケーブルネットワークはNBCUがスポーツリーグなどと締結した放送権契約に基づき特定のスポーツイベントを中継する。
また、Versantの中核を担うMSNBCではグループ内人事が進行中で、すでに100人規模の新規採用も始まっている。MSNBCの看板キャスター、レイチェル・マドー氏が新会社に残留する一方、選挙報道の分野で緻密なデータ分析で知られるスティーブ・コルナッキー氏は地上波NBCのニュース部門に異動するという。
今回の再編は停滞するケーブルテレビ事業と成長著しいストリーミング事業を分離し、それぞれに最適な運営体制を整える戦略の一環と位置づけられる。6月10日に発表されたWBDの組織再編もCNNやTNTを含むケーブルネットワーク部門を切り離し、配信事業HBO Maxや映画部門と分離する新体制への移行を目指すもの（近く詳報予定）。他の大手メディアグループにも同様の動きが広がる可能性があるとみられる。