米ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)は5月14日、同社のストリーミングサービス「MAX」の名称を「HBO Max」に戻すと発表した。2008年のオンデマンド型サービス「HBO Go」を皮切りに、2015年「HBO Now」、2020年「HBO Max」と変化を重ねてきたが、2023年に「HBO」の冠を外し、「MAX」へとリブランディングした。それからわずか2年での"出戻り改名"となる。
加入者の多くは『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル(The White Lotus)』や『THE LAST OF US』(いずれも日本の配信サービスで視聴できる)といったHBOの作品がお目当てとされる。そこで、有料でも見る価値があると定評の「HBO」のブランドをあらためて訴求すべく再修正を迫られたようだ。
こうしたなか、競合する大手リニア系メディア(ESPN、FOX、CNNの3社)も今秋にかけて新たなストリーミングサービスを立ち上げると発表した。いずれも消費者に直接届けるDTS(direct-to-consumer)のサービスで、ケーブル非加入者や解約者(コードカッターやコードネバー)に新たな契約を促す。既存のケーブル契約者には追加料金なしで提供する方針だ。
ディズニー傘下のESPNが立ち上げるのはESPN系全てのケーブルチャンネルとデジタル配信サービス「ESPN+」を統合したプラットフォームだ。名称はあえてシンプルに「ESPN」。月額29.99㌦(約4,300円)の無制限プランに加え、11.99㌦(約1,700円)の「セレクト」プランも提供。さらに、Disney+とHuluを組み合わせたお得なバンドルプランも提供する。
FOXは「FOX One」という新たな配信サービスを今年のNFLシーズン開幕前に始める。ニュース、スポーツ、エンターテインメントを統合し、既存のケーブル契約との価格バランスを維持しつつ、他のストリーミング事業者との提携も視野に入れる。現時点ではオリジナルコンテンツの展開は予定せず、既存の資産を再構成したシンプルなものになる見込みだ。価格はまだ明らかにされていない。
そしてCNNもこの秋に新たなストリーミングサービスを開始する。2022年に鳴り物入りで始まった有料配信サービス「CNN+」が1カ月で打ち切られた苦い経験のあるCNNだけに、今回は派手なキャスター陣や番組構成を避け、従来のケーブル放送に近い形でライブ配信とオンデマンドを組み合わせる。既存のデジタルニュースの購読サービスとも連携し、記事と映像を一体化して提供する。ケーブル契約者には追加料金なしで視聴可能とする。こちらもサービス名や価格は未定。
これらの背景には、NetflixやAmazon Prime Videoといった巨大プラットフォームが支配するストリーミング市場でポジションを確保し、巻き返しを図ろうとの危機感がある。各社とも「すべてを提供する」万能型のモデルから一歩退き、それぞれの持つブランド資産や専門性を活かした特化型サービスと柔軟なバンドル戦略に活路を見いだそうとしている。視聴者の奪い合いは一段と激化しており、従来型テレビとストリーミングの両立、そしてブランドの再定義をめぐる模索はまだ続きそうだ。