米ノースウェスタン大学でジャーナリズムを教育・研究する「Medill」が10月23日、3回目となる年次リポート「The State of Local News」2024年版を発表した(冒頭画像)。全米でローカル紙(印刷メディア)の数や雇用者数、発行部数・頻度などすべてが急速に減少し、ローカルニュースの"砂漠化"がさらに進んでいる。
2005年からの20年でローカル紙の3,300紙以上が廃刊となり、この1年でその数は127紙と週2.5紙のペース。全米3,143郡のうち地元にローカル紙が全くないのは208郡(昨年は204)となった。この「皆無」地区に1紙しかない郡を加えると、全郡の半分以上の1,771郡(人口にして5,500万人)となる。今後、ローカル紙を失うリスクがある郡は全体の22%という。
新聞の発行頻度も減少している。全米で現在発行されている新聞の総数は約5,600紙。その80%が週刊だ。「日刊」と銘打つ新聞の多くも表向きで、"日刊紙"約1,000のうち実際に毎日発行しているのはその3分の1に満たないという。かつて毎日発行していた約180紙も週に1~3回しか発行していない。日刊をうたいながら全く発行せず、デジタルサイトしか持たない新聞も30紙ある。
発行部数も2005年の1億1,500万部から4,000万部と65%の減。過去1年で全米の大規模な日刊・週刊紙500紙が失った定期購読者数(紙とデジタル合わせ)は200万人と推計される。
雇用者数も減少が顕著だ。2022年から23年で7,000人の編集部門従事者(記者・編集者)が解雇された。前年は数百人だった。編集部門は新聞業界の労働者の3分の1に過ぎず、その他の一般職や配達部門、印刷部門での解雇も著しい。結果、現在全米の新聞業界で働く労働者数は10万人に満たないという(米労働統計局)。
こうしたローカルニュースの"砂漠化"を懸念し、全米各地で行政や慈善団体によるローカルニュース基金や助成金も増えており、紙の新聞からデジタルニュースサイトへの移行も目立つ。昨年81しかなかったこれらのサイトは現在600以上。しかし、ほとんどは西海岸、東海岸の大都市をカバーするもので、最も"砂漠化"が深刻な僻地(ニュース砂漠の75%は僻地)では新聞の廃刊による不足を補うに至っていない。
「The State of Local News report」は以下のリンクから閲覧できる。https://localnewsinitiative.northwestern.edu/projects/state-of-local-news/2024/report/
https://www.medill.northwestern.edu/news/2024/medill-report-shows-local-news-deserts-expanding.html
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このリポートの発表1週間後の10月30日、ニュージャージー州最大のローカル紙「The Star-Ledger」が2025年2月に紙版を廃刊しデジタルのみとなると報じられた。The Star-Ledgerの地元は州北部のハドソン郡。人口密度も高く政治の汚職が頻発することでも知られるが、来年から印刷メディアとしての日刊紙が消滅する。
一方、リポート発表と同じ日にLGエレクトロニクスの米法人は、運営する無料の配信サービス(FAST)の「LGチャンネル」にニュースに特化した「News Hub」を開設すると発表した。ABC News LiveやCNN Headlines、FOXのLiveNOW、NBC News Now、Scripps Newsといった主要メディアの全国ニュースに加えて、アレン・メディアグループやシンクレア傘下のローカル局発のニュースや気象情報などを無料で配信していくという。オースティン、ソルトレークシティ、シンシナティ、ラスベガス、ボルティモア、シアトルなど主要都市のローカルチャンネルから始め、随時拡大していくとしている。視聴にはLG製のスマートTVが必要となるが、FASTのローカルニュースがこうした砂漠化をカバーできるのか期待される。