【海外メディア最新事情】NABショー 3年ぶりにラスベガスで開催 テレビ・ラジオの次世代技術が並ぶ

渡邉 卓哉
【海外メディア最新事情】NABショー 3年ぶりにラスベガスで開催 テレビ・ラジオの次世代技術が並ぶ

NABショーが2019年以来3年ぶりにラスベガスで開催された。昨年10月に開催を模索していたものの出展企業のキャンセルなどで急きょ中止となり、今年は念願の再開となった。コロナの影響から完全復活とはならず、参加者は約5万2,500人と19年の半分強となり、出展数も940社と19年比6割程度にとどまった。今年は、21年にオープンしたコンベンションセンターのウエストホールも全面的に使用し、ノース、セントラル、ウエストという3つのスペースを活用した。

NEXTGEN TV

NABの技術部門を統括するSam Matheny氏は、今回の見どころを「NEXTGEN TV」と「クラウドプロダクション、バーチャルスタジオ」と話す。

「NEXTGEN TVは現在最も成長している分野で、多くの放送局で採用が進み、視聴者が増え、関連するサービスのローンチが進んでいる」と同氏。NEXT-GEN TV(ATSC3.0)の普及促進は、NABがここ数年積極的に取り組んでいる分野で、ウエストホールに専用のデモスペースが設置されていた。同技術のローカル市場への導入支援などが行われており、こうした普及策が功を奏し、放送局による導入やメーカーによる対応テレビの販売が順調に増加。今年の半ばまでに全米世帯の75%へのリーチを目指す。さらに同技術に付随するさまざまなサービスとしてデータキャストなどの取り組みも始まっている。

クラウド、バーチャル

同氏は「クラウドワークフローを利用することで、放送局のコンテンツ制作が革新的に変わる。LEDスクリーンとクラウドプロダクションの技術を組み合わせることで、各地に点在するスタッフでプロダクションが進むようになる」と話す。NABショーでもMicrosoftやAWSなどがこうした分野のエンドトゥエンドのソリューションを紹介していた。

バーチャルスタジオ(=写真㊤)では、インカメラVFXが注目を集めた。3DCGを映した大型LEDディスプレイの前に、出演者や小道具などの被写体を配置し、ライブ・カメラ・トラッキング、リアルタイム・レンダリングなどの技術を駆使することで、出演者とバーチャルな背景を違和感なく統合し、撮影する技術だ。NABショーでも会場入口付近に体験コーナーが設けられ、参加者が列をなした。こうした技術を可能にしているのが、Epic Games社が提供するUnreal Engineで、フォトリアルなビジュアルと没入体験を作り出す、高度なリアルタイム3D制作ツールだ。

「マンダロリアン」などの作品で脚光を浴びたこうしたシステムだが、放送でも生中継におけるバーチャルスタジオの採用が進んでいる。FOX Sports、NFLやウェザーチャンネルなどは、既にUnreal Engineを採用したバーチャルスタジオから生中継を行っている。LEDディスプレイではなく、クロマキーを使用するものだが、出演者や合成パネルの"影や反射"が形成されたり、透明の水のボトルに背景が透けて見えたり、ARの合成パネルの位置が出演者の立ち位置によって自動的に置き換わるなど、本物とも見紛(まが)う仮想現実を構築している。関係者は「テレビ向けのグラフィックスはまだまだ改善の余地がある」としており、バーチャルスタジオは放送の未来とも言えそうだ。

ラジオショー

RAB(全米ラジオ広告協会)が単独で開催してきたラジオ局向けのイベントであるラジオショーが、今年からNABショーに統合された。もともとラジオ関連の展示はNABショーでもなされていたが、そうした展示に加え、ラジオ・オーディオに関連するセッションやネットワーキングをRABがサポート。「ラジオはもはやラジオ単体のビジネスではなく、オーディオ、ビデオ、ソーシャルを巻き込んだマルチメディアに進化している。NABショーは現代のラジオに即した場だ」とRABでは今後の発展に期待を寄せる。

テレビ・ラジオの業界関係者が集った今年のNABショー。久しぶりの対面開催は見応えのあるものだった。

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