米ローカルニュース媒体 非営利で生き残りを模索 慈善団体が支援に立ち上がる

編集広報部

米国の24を超える超党派の慈善団体が9月7日、連名で「Press Forward」を立ち上げ、全米のローカルジャーナリズムを支援するため今後5年間で5億ドル以上を投資すると表明した。 「ローカルニュースへの慈善投資が新時代に入った」と米オンラインメディアAxiosが伝えている。全米各地で「ローカルニュースの砂漠化」が問題視される昨今、各地で地元のニュース媒体を存続させるため、慈善団体が次々と支援を申し出ているという。

なかでも、ジャーナリズム支援を軸に活動してきたナイト財団は今後5年で、これまでの2倍となる1億5,000万ドルをPress Forwardに寄付すると約束。マッカーサー財団も2,500万ドルのインパクト投資*¹に加え、5年間で1億5,000万ドルを寄付する。このほかに名乗りを上げているのは、ハリー王子とメーガン妃が主宰するアーチウェル財団やニューヨーク・カーネギー財団、フォード財団、ウィリアム&フロラ・ヒューレット財団、レンフェスト・インスティチュート・フォー・ジャーナリズムなど。これらを統括し、Press Forwardを推進するのはマイアミ財団ということだ。

Press Forwardはローカルニュース媒体への支援目的として4つの柱を立てている。

①地元コミュニティに信頼されるローカルニュース媒体にすること
②ニュース制作現場の環境整備とその普及の促進
③ニュース報道における長年の不公平の是正
④ローカルニュースへのアクセス拡大のための公共政策の充実

背景にある"ローカルニュース砂漠"

Axiosによると、過去15年間に全米で2,000近いローカル新聞社が閉鎖し、その結果、全米約20%の人口が自分の住む地域のニュースや情報を得られない状態にあるという。非営利の報道機関の連合体「The Institute for Nonprofit News」(INN) によると、こうした"ローカルニュース砂漠地帯"をカバーするため、近年は慈善団体からの支援を得て新たなニュース媒体が生まれているという。新設された非営利媒体の収入源の45%が慈善団体からの寄付ということだ。

非営利運営が増えていることは、Axiosが2021年にも報じている。パンデミック中、経営難にあえぐ多くのニュース媒体が非営利とすることで生き延びているというものだ。INNによると全米の非営利ニュース媒体は21年2月時点で309を数え、パンデミックが始まった20年には"ニュース砂漠地帯"をカバーするため新たに26の事業体が名乗りを上げている。

米国では非営利ニュース媒体は古くから存在し、そう珍しいものではない。19年にはユタ州のソルトレーク・トリビューン紙が非営利経営に切り替えたほか、経営難のニュース媒体が慈善団体の傘下に置かれるケースもある。パンデミックが節目となったのは間違いなく、21年初頭にはニュージャージー州でも14のローカルニュース媒体が非営利宣言をしている。さらにはこの9月、ニーマン・ラボ*²のサイトで、コロラド州のローカル・デジタルニュースメディアの「コロラドサン」が100%非営利運営に切り替えたと報じている。コロラドサンは、これまで営利・非営利のハイブリッド運営のパイオニアとして注目されていた。

非営利にする利点は税額控除の範囲が広がることだが、本来広告で収益を追求するニュース媒体が非営利化すると、米IRS(内国歳入庁)がその分類に窮し、執拗な監査が入るなど業務上のハードルはあるという。しかし、「ローカルニュースは地元住民にとって必要な情報。そのビジネスが広告収益で成り立たないなら、寄付で運営するしかない」というのが、非営利経営に切り替えた媒体の共通した意見のようだ。


*¹ 財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動。

*² Nieman Journalism Lab/ジャーナリズム研究を手がけるハーバード大学内ニーマン財団の一機関。

【「民放online」参考記事】
米国ローカルテレビ篇スピンオフ ~ローカルニュースを守るには? ~ 「データが語る放送のはなし」⑱(木村幹夫、2023年3月1日掲載)

ローカルメディアに何を求めるのか 米の約5,000人を聞きとり調査(水野剛也、2023年6月29日掲載)

地域情報はなぜ重要なのか――「メディア砂漠」アメリカの現状から考える(前嶋和弘、2023年7月10日掲載)



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