米トランプ新政権は今年2月に海洋大気庁(NOAA)と国立気象局(NWS)の予算と人員の大幅な削減に踏み切った。これが米国の気象観測や災害時の報道体制に深刻な影響を及ぼすと米各メディアが報じている。専門家らは「気象予報の精度低下と警報機能が弱体化し、異常気象を見逃したり国民に警報を出せなくなる」と警鐘を鳴らしている。
2月末、政府はNOAAとNWSの800~1,000人規模の人員を削減した。フロリダ州南部のマイアミやキーウエストなどでは最大で40%の人員が不足し、24時間監視体制が維持できなくなっているという。全国的にも気象観測装置「ラジオゾンデ」を搭載した観測気球の打ち上げ数が約17〜20%減り、予報精度の劣化としてすでに影響が現場に出始めている。
新政権はまた、NOAAの各施設や研究部門に28%の予算削減を指示。傘下の海洋大気研究局(OAR)の廃止も視野に入れているという。災害対応を担う連邦緊急事態管理庁(FEMA)への補助金も32%カットされるとの報道もあり、気象観測と防災の両面で国家的な備えが揺らぎ始めた。
これらの政策に科学者や放送関係者の間で不安が広がっている。マイアミで6月9日に抗議集会を主催したジョン・コルティナス氏(元NOAA・OAR海洋大気研究局副長官)は「OARの予算が断たれればハリケーンなどの予測精度を高めるための研究開発が停止する」と訴えた。特にマイアミのOARで行われている航空機「ハリケーン・ハンター」による観測(ハリケーンや熱帯低気圧の内部に実際に突入する観測)や予測モデルの開発は「現状維持はできても、それ以上の質の向上は望めなくなる」との懸念を示した。
危機感は報道の現場にも及んでいる。フロリダ州のローカル局NBC6サウスフロリダの気象キャスター、ジョン・モラレス氏は6月初旬、ニュース番組の放送中にトランプ政権の政策を名指しで批判した。番組では、2019年のハリケーン「ドリアン」がフロリダ沿岸を北上した様子を映像で紹介。予測精度のおかげで南フロリダに上陸することがないことを自信を持って伝えることができたが、「今年は同じように断言できるか分からない」と、不安をにじませた。「新政権による破壊的な政策は、米国の科学分野でのリーダーシップを損ない、今後何世代にも影響するだろう」とし、特にフロリダ州中南部のNWSでの人員不足(20〜40%)と、気球観測の減少が「予報の質に直結する」と強調した。
気象・気候研究に関わる200人以上の専門家が5月28日から6月1日にかけて100時間にわたるライブ配信を実施して抗議の声を上げるなどの動きが相次いでおり、気象予報が信頼に足るものであり続けるには、公共予算の支えが不可欠だと訴えている。マイアミを拠点とするABC系列ローカルテレビ局WPLGのハリケーン専門家マイケル・ローリー氏は、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で「予算削減で異常気象を検知できず警報が出せなくなるおそれがある」と警告し、政策転換を訴えている。