ラジオ局が手がけるイベント、グッズ販売、ポッドキャスト配信etc.――。ローカルラジオを中心に放送外ビジネスの事例を取り上げ、ラジオ事業の可能性を探ります。ライターの豊田拓臣さんが各局の担当者などへの取材をもとに経営の側面にも焦点を当て放送外ビジネスのノウハウの一端に触れていきます(まとめページはこちらから)。第2回は、南海放送『ヒコヒコジョッキー ラジオマンの憂鬱』の「リスナー集会・松山ランチ会」。(編集広報部)
ラジオ局にとって主たる業務は「放送」であり、イベントなどの「事業」はいわば副業である。であれば、放送、すなわち番組と事業の関係は、事業により番組を一層盛り上げて社会的な認知を高め、スポンサーの獲得にまでつなげていくのが理想的なのではないか。今回はその展開がうまくいっている例を紹介したい。
「リスナー」が主役に!?
愛媛県にあるラジオ・テレビ兼営局の南海放送で、日曜の午前10時から12時に放送されている『ヒコヒコジョッキー ラジオマンの憂鬱』(通称『ラジ鬱』)。同社会長の田中和彦氏がプレゼンター(パーソナリティ)を務めるこの番組が、「リスナー集会」である「松山ランチ会」を2025年9月21日に行った。会場は松山市の中心部にあるANAクラウンプラザホテル松山のエメラルドルーム。多数の応募の中から抽選をくぐり抜けた、愛媛県内外のリスナー150人が参加した。

<番組プレゼンターの田中和彦氏。当日は司会進行に参加者との写真撮影にと大忙しだった>
......とはいったものの、実は筆者は最初に「ランチ会」と聞いたとき、どんな内容なのかが想像できなかった。「出演者の田中和彦氏と松沢はつみ氏が、ディナーショーのように壇上でトークするところを、参加者が食事しながら観るのだろうか」と思っていたのだが、実際に取材をしてみて驚いた。田中氏と松沢氏は「出演者」というより「司会進行役」で、参加者=リスナーが出演者だったのだ。
もちろん、参加者は40年以上前からマイクの前に座る田中氏のファンで、「49歳以下お断り」をうたう洋楽中心の音楽番組『ラジ鬱』のコンセプトに共鳴した人たちだ。田中氏と松沢氏に会えることを喜んでいた。だが、演目に挙げられていた「フラダンス」と「バンド演奏」を披露したのは参加者。バンドは『ラジ鬱』リスナー同士が田中氏の提案により結成したという。フラダンスもバンドもまだまだ発展途上ではあったが、他の参加者は温かな目で見守っていた。連帯感あふれる優しい空間ではあったが、「イベントの演目は番組側がゲストを呼ぶなどして用意し、リスナーはそれを観るもの」、いうなれば「番組が主、リスナーは従」と考えていた筆者にとっては晴天の霹靂であった。

<ランチ会では写真の弁当のほか、刺身、ゼリー、ケーキなどが提供された>
スポンサーも「番組コミュニティ」の一員
また、田中氏が参加者のプロフィールを把握していることも衝撃だった。イベント中、番組企画「ウインターソング名曲選手権」の組み合わせ抽選やスポンサーからのプレゼント抽選など、参加者が壇上に呼ばれる機会が何度もあったのだが、多くの場合、どこに住んでいるどんな人なのかを尋ねることなく紹介していたのだ。参加者にとってうれしいことであるだけでなく、番組との間に心理的な一体感を生み出す。ひいてはそれは、番組を中心としたコミュニティを作り出すのである。
そして、ランチ会はそのコミュニティの様子をスポンサーに示す場ともなっている。というのも、スポンサー5社(の代表者)すべてがランチ会に参加し、参加者と同じ卓を囲んで食事をしていたのだ。どんな人が番組を聴いていて、番組を取り巻く熱気がどれほどのものかを直接見せられるのは、セールスの面でもプラスに働くのは間違いない。事実、壇上で漫談を披露するスポンサーがいたことからも、非常に高い満足度を得られていることがうかがえる。
6,500円の参加費を集めているランチ会。ANAクラウンプラザホテル松山という高級ホテルで開催し、提供される食事もその名に恥じないものだけあり、収支的にはトントンだという。しかし、参加者へのサービス、スポンサーへのアピールという付加価値を考えると成功といえるだろう。そして、この「コミュニティを作って動かし、スポンサーを得る」ことが「ラジオのメソッド」だと田中氏はいう。どういうことかは、次回、氏へのインタビューで掘り下げていく。

<イベントの最後は、参加したリスナー150人による合唱で締めくくられた>

