この春10周年を迎えた静岡エフエム放送(以下、K-MIX)のトークバラエティ番組『K-MIX LIFE! LIFE! LIFE!』(金、14:08~16:55)の10年の歩みを記録した『ラララBOOK』は、出版社や書店を経由しない完全自費出版により、三種類の形態で約1,500冊を販売。さらに、広告出稿や付随した営業企画イベントも実施するなど、事業としても成果を実感することができました。その経緯と取り組みについてリポートさせていただきます。
まず『ラララBOOK』を簡単にご説明します。
●通常版=A5版、84ページ(本文80ページ、表4ページ、詳細は後述)。1冊2,500円で販売した。
●特別版=購入者がパーソナリティ2人と撮影し、それが表紙になる世界に1つだけの特別版を1冊6,000円で販売。150組が購入・参加してくれた。完成品は、県内3カ所のスタジオ、イベント会場2カ所で「お渡し会」を開いてパーソナリティより手渡しした。
<パーソナリティ2人と撮影しそれが表紙になる世界に1つだけの『ラララBOOK』特別版>
また、撮影会時に表紙と同じアングルで撮影できるチェキチケットも1,100円で販売。購入者の8割が購入してくれた。
●豆本=通常版を豆本サイズにしたもので1冊800円。肉眼でも読もうと思えば読めるがなかなか難しいため、PDFでダウンロードできるようにした。ただし、特別版・通常版には収録されている「10周年記念対談」は収録されないなどの差別化も図った。
『ラララBOOK』ができるまで
2015年4月に始まった『K-MIX LIFE! LIFE! LIFE!』のパーソナリティを務めるのは、シンガーソングライターであるkainatsuと音楽グループであるD.W.ニコルズのわたなべだいすけです。彼らは静岡県出身ではありませんが、静岡に深い親しみを感じ、同じようなラジオ観を持っていることから、週末の入り口となる静岡の金曜夕方を彩ってもらうことにしました。
ただ、この10年を振り返ると、番組がスタートすると同時に、kainatsuは産休に入り、途中でわたなべだいすけがリニューアル期間をとるなど、イレギュラーなことも多くありました。また、天災やパンデミックの影響下では、必要以上にスタジオに足を運ぶことなく、自宅から放送(リモート放送)を続けるなど、この10年間、番組は独自の道を探り続けました。なお、このリモート放送は、特別なシステムを導入することなく、既存のビデオ通話システムを使いながらもほぼ通常放送と変わらないクオリティで行われています。
このようなある種、異色な番組の歴史を一冊の本にまとめたら面白いんじゃないかという話は2023年頃から始まり、番組10周年に向けて番組内でも構想やアイデアを話していたところ、それをたまたま聴いていたフリーライターの豊田拓臣さんが「番組本、ライターやりますぜ」とツイートしてくれたことをきっかけに、プロジェクトは本格的に動き出しました。
しかし、当初は、社内予算獲得までは至らず、すべてはゼロからのスタート。加えて、私たちは書籍制作の専門知識も持っていません。そこで、ライターの豊田さんにわれわれのただただ熱い思いだけが詰まった企画書を送り、ミーティングを行いました。
そこで提案されたのは、「出版社を介さずに自費出版する方が良い」「静岡という地元に詳しい出版社と提携すること」でした。このアドバイスを受け、過去に当社と仕事をした編集者の一人で、今回本全体のプロデュースをしてくれた「合同会社くらしたび」の志水竜一さんに連絡を取りました。
志水さんからは最初のミーティングで「書店を通さず受注生産にして、K-MIXのウェブショップで販売したり、手渡ししたりできる形にするほうが良い。それなら広告販売もできる」「通常版だけではなく、購入者と撮影して世界に1つだけの表紙を作ったり、豆本サイズの本も作ってみては?」という今回実現したアイデアもいただきました。お二人が最初の打ち合わせからこれほどまでに情熱をもって私たちと向き合ってくれなければ、本が完成することはなかったかもしれません。それくらいお二人の貢献は本当に大きいものがありました。その後、企画の方向性を固め、社内の調整を進め、正式に制作を開始することができました。
ちなみに本の発売後にお二人にお話を聞いてみたところ「正直、話をもらった時には、できるかどうか半信半疑だった」という声をいただきました(笑)。
充実の80ページ
この10年間を振り返るパーソナリティインタビューはもちろんのこと、年表や辞典、番組コーナー「今週のひとりごと」の人気エピソードの書き起こしなど、リスナーのチカラや記憶を借りながら多くの要素を詰め込みました。さらに、わたなべだいすけのリニューアル期間中にパーソナリティを務めていた、芸人でパーソナリティの芦沢ムネトさんとの対談、そして過去にはほとんど実現しなかったkainatsuと甲斐よしひろさんによる親子ラジオ対談など、10周年記念の特別対談も実現。80ページというページ数以上に充実した内容が盛り込まれています。
<『ラララBOOK』目次>
営業企画としての側面も
『ラララBOOK』では、過去に番組をスポンサードしてくださった10社の企業に広告出稿いただきました。私たちの番組は、名物スポンサーが多くいらっしゃいます。この親しみやすさのおかげで、広告主の皆さまからも「これはお祝いだから」という言葉とともに協力を得ることができ、読者にとっても違和感なく自然に広告を受け入れてもらうことができました。
<ベイドリーム清水で行われたトーク&大抽選会(写真㊧)、同お渡し会の様子(写真㊨)>
また、発売を記念したイベントを県内の商業施設2カ所(ベイドリーム清水、サントムーン柿田川)で開催することもできました。今回の本は、完全受注生産で事前予約した方以外は購入できない形でしたが、予約締切後に、「再販希望」の声も多く寄せられたため、急遽、イベントでも通常版と豆本を限定数量で販売。残念ながら通常版はわずかに余ってしまいましたが、その後ウェブショップで再販したところ、3時間で完売。また、抽選会の景品として制作した「『ラララBOOK』専用のブックカバー」は、完成度が高かったため販売もしたところ、用意していた170枚は即完売となりました。
<抽選会の景品として制作した『ラララBOOK』専用のブックカバー>
最後に
初めは、「出版不況と言われる状況で本を作るなんてリスクではないの?」といろいろな人から懐疑的な意見をいただきました。しかし結果的に、約1,500冊の本を販売し、それだけでなく、広告収入も生み出すことができました。また、私たち番組チームも、単純に本を作ったという実感はあるものの、それ以上に、新たな価値を生み出したような感覚があり、今後の10年、20年にわたる番組制作に向けて、新たなスタートラインとなったように思います。長く番組を続けている皆さんには、ぜひ本の制作、そしてそれに付随したイベントの企画をオススメします! 放送だけでは得られない新たな発見や経験ができると思います。