マスコミ倫理懇談会全国協議会は10月9~10日、福井市で第67回全国大会を開いた。全国の新聞、通信、放送、出版、広告など80社・団体の219人が会場に集い、オンラインで58人が参加した(=冒頭写真)。
初日は徳永康彦・代表理事のあいさつ、吉田真士・福井新聞社代表取締役社長の地元社代表あいさつに続き、「SNS時代の取材・報道とは―戦後80年、揺らぐメディアの信頼」をテーマに日本大学危機管理学部教授の西田亮介氏、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の山口真一氏、JX通信社代表取締役の米重克洋氏がディスカッションを行った。司会はテレビ東京報道局総合ニュースセンターエグゼクティブプロデューサーの斉藤一也氏が務めた。このなかで、既存メディアはインターネット上で存在感を示せていないとの意見や、情報に価値を与えるため、平時からのファクトチェックや高い専門性で差別化することの重要性などについて指摘があった。
<左から米重克洋氏、山口真一氏、西田亮介氏>
続いて、「メディアと法」研究会の新規プロジェクト「記者活動に対する誹謗・中傷への制度的・法的対応および支援策の検討」について、同研究会客員研究員で早稲田大学教育・総合科学学術院教授の澤康臣氏から報告があった。
初日の午後は「真に必要な災害報道とは」「SNS時代の選挙報道の課題 」「言論空間におけるスティグマを考える」「記者活動に対する誹謗・中傷への対応」「メディアはAIを使いこなせるのか」の5つをテーマに分科会形式で討議を行った。
「災害報道」の分科会には関西テレビ放送報道情報局報道センターの押川真理氏、テレビ宮崎コンテンツプロデュース局報道部担当部長設備・デジタル担当の井上豊氏らが登壇。能登半島地震で避難所を取材した押川氏は、阪神・淡路大震災から30年を機に制作された番組を通じ、災害発生初期の避難所の劣悪な環境が、この30年間で変わっていないとの問題を提起。「継続的な報道と、国を追及する視点が求められているのでは」と訴えた。2025年1月にスタッフ不在時の地震発生に対応した井上氏は、いつ・どのような行動を・どの主体が行うか、時系列に沿ってまとめた「タイムライン」の事前共有と訓練の大切さを強調した。
本誌記者が参加した分科会は「選挙報道」。SNS時代におけるテレビ・新聞の選挙報道について、2025年参院選の新たな取り組みや課題を各社が報告。コメンテーターとして西田亮介氏、山口真一氏も参加した。神戸新聞社報道部デスクの安藤文暁氏は、2024年兵庫県知事選ではSNS上に拡散された偽・誤情報のすべてに対応しきれず、前例踏襲の公平性を保つ報道を続けた結果、記者への誹謗・中傷につながったと報告。これを受け今年の参院選では、選挙区の全13候補の選挙公報に書かれた言説についてファクトチェックを実施。根拠不明、判定不能の情報への対処などの課題に直面しつつ、「特定の人を不当におとしめたり、選挙を混乱させたりする情報を放置しない」と取材班で方針を一致させたと語った。
<「選挙報道」分科会で神戸新聞社・安藤文暁氏が報告>
放送関係からはNHK報道局政治部副部長の伏見周祐氏が報告。2024年兵庫県知事選直後から選挙報道改革プロジェクトを始動し、試行を経て迎えた2025年参院選では、全選挙区で第一声のノーカット動画、争点に関する現場取材やファクトチェックを実施。「ネットに出すコンテンツも、放送法が前提となる」とし、テレビやネットにおける公平性をどう確保していくかが今後の検討課題になると話した。
このほか日本テレビ放送網、読売新聞社、佐賀新聞社、時事通信社の有志4社で2025年6月東京都議選から開始したファクトチェックの取り組みについて、読売新聞東京本社社会部次長の大野潤三氏が報告。エビデンスをオープン情報に限ることで誰でも検証できる透明性を確保し、特定政党の批判につながる情報を記事化の対象から外した結果、記事の本数は限定的になったが、「ネット空間に対処する姿勢は示せた」と話した。
2日目は各分科会の座長による報告と全体討議の後、「社会の分断が進む中、民主主義はかつてない危機に直面している。倫理観を堅持し、責任ある姿勢を貫くことで、民主主義社会の基盤を支える存在であり続けることを申し合わせる」との今大会申し合わせを採択した。来年は11月に広島市で開かれる。