【参院選2025】メディアシフトがもたらした「日本版トランプ現象」と報道の課題

米重 克洋
【参院選2025】メディアシフトがもたらした「日本版トランプ現象」と報道の課題

メディアシフトは、選挙の姿を変えるのみならず、政治のあり方そのものにも大きな影響をもたらしつつある。7月20日の参院選を経て現出した新しい政治の風景は、そのことを否が応にも実感させられるものだった。 

地方の保守地盤で集票した参政党

参政党の躍進は、端的に言えば「日本版トランプ現象」だ。参政党候補が全国で下馬評を大きく超える高い得票率を得たことは与野党に衝撃を持って受け止められた。

例えば群馬では参政党候補が31.5%以上もの得票率を得て、自民党候補(34.9%)に肉薄した。投票日当日の各社出口調査では、軒並み自民党候補を上回り首位につけるほどの高得票だった。同じく保守地盤とされた鹿児島でも、参政党候補は23.8%以上の得票を記録し、野党系無所属候補と自民候補の一騎打ちの構図を三つ巴に変えた。 

このように、参政党候補の得票率が20%を超えた選挙区は、福島、栃木、群馬、茨城、石川、岐阜、三重、岡山、広島、山口、徳島高知、愛媛、熊本、大分、宮崎、鹿児島の16選挙区に上る。これらの選挙区を一見すれば、その多くがこれまで「保守地盤」「自民党王国」などと呼ばれてきた地域だったことに気づくだろう。自民党が強く、旧民主党系の勢力が弱い地域ほど、参政党の得票率が高い傾向が見られる。参政党が議席獲得に至った選挙区は東京(得票率9.6%)など大都市に集中しているが、東京などでの得票率は上記に挙げたような保守地盤の選挙区に大きく見劣りする。もちろん定数が多いゆえ各党が候補を競って擁立した構図の影響もあるが、それを差し引いても参政党が地方の保守地盤で集票したことは注目に値する。

調査データからみた参政党支持層の政治意識

参政党支持層の政治意識は特徴的だ。TBSテレビとJX通信社が投開票日1週間前の712日・13日(土・日)に合同で実施したネット世論調査(全国の有権者4,783人が回答)によれば、「日本社会では、外国人が必要以上に優遇されている」という意見に「強くそう思う」「どちらかと言えばそう思う」と共感を示した人の合計は参政党に投票するとした人の実に84%に上った。各党支持層と比べても最も多い水準だ。 

参政党は「日本人ファースト」をキャッチコピーに掲げて外国人政策を争点化しただけのことはあり、支持層の外国人忌避の傾向は多面的に強い。「日本を訪れる外国人観光客の数を、今以上に増やすべきではない」との意見には86%、「外国人が日本の土地や建物を買うことを規制すべきだ」との意見には98%が共感を示したほか、「日本に外国人労働者を積極的に受け入れるべきだ」との意見には84%が非共感を示した。インバウンドにせよ、投資にせよ、労働力にせよ、外国人という存在全体に対する忌避の傾向が強いことはこれらのデータから明らかだ。 

また、「日本社会のジェンダー平等につながる政策をもっと推進すべきだ」との意見には84%が非共感を示した。この割合は、調査対象とした全ての政党・政治団体で最も高い。参政党の政策や主張の中には、男性は仕事を、女性は家事育児をといった性別役割分業を想定しているかのようなものが目立つ。選択的夫婦別姓制度にも反対であり、近年のジェンダー平等の流れとは逆を行く主張が特徴だ。文化的に右寄りで「伝統的家族観」を重視する傾向は支持層の意識にもはっきりと現れている。

根深い政治不信とマスメディア不信

加えて注目すべきは、強い政治不信の意識だ。「既存の政治家は自分のような人々のことをあまり顧みない」とする意見には、参政党に投票するとした人の97%が共感を示した。これも各党で最多だった。「現在の政党は既得権益にとらわれており、より直接的に人々の意思を代表するリーダーが現れてほしい」との意見にも98%が共感を示しており、既成政党や既存の政治システムを批判して直接民主主義を重視する、いわゆるポピュリズム的な意識が強いこともわかる。 

こうした根深い政治不信の背景には何があるのだろうか。ヒントになりそうなのが、支持層の生活水準についての認識だ。同じ調査の中で、回答者に自身の生活水準が他の人と比べてどの程度か、「上の上」から「下の下」まで7段階で聞いたところ、参政党に投票するとした人の中では「下の上」「下の下」を選んだ割合が計48%と、各党で最も多かった。 

ちなみに、各社の世論調査や出口調査では、参政党支持層のボリュームゾーンは40~50代の男性にある。これらも含めてまとめると、参政党はいわゆる「就職氷河期世代」で、どちらかと言えば地方で生活実感の厳しい、右寄りの政治意識の人をとりわけ多く惹きつけた――そんな実像がデータから浮かび上がってくる。 

加えて、メディアや情報に対する意識の特徴についても指摘しなければならない。同じ調査で「テレビや新聞が発信する情報は、概ね信用できない」との意見については参政党に投票した人の73%が共感を示した(=下図)。いわゆる敵対的メディア認知(人間が自分の意見に反するメディアの報道は偏向していると認知するバイアス)が強いことが窺える。また、「テレビや新聞の情報よりも、インターネット・SNS上で自分で見つけた情報に価値を感じる」との意見に共感する人も52%と、各党支持層の中でも特に多かった。メディアシフトとともに、情報接触の中心をマスメディアからSNSや動画プラットフォームなどに移していった彼らの不信感は、マスメディアの報道にも向けられていることがわかる。 

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「トランプ現象」との相似

こうした性格を持つ支持層に支えられた政党が選挙で劇的に躍進した様は、まさに米国で起きた「トランプ現象」と相似をなす。 

トランプ氏の岩盤支持層とも言われる層は、都市よりも地方・郡部に多く、男性の比重が大きい。また、保守的で伝統的な価値観を重視し、ジェンダー平等や多様性についてはネガティブな意識がある。自分たちがグローバリゼーションで取り残された、政治に見捨てられたという意識が強く、既存の政治システムや「新たな価値観」を押しつけるマスメディアに対する反感が強い。ここまで述べれば、トランプ現象と参政党現象が瓜二つであることがはっきりする。実際、参政党の神谷宗幣代表は、トランプ政権の反グローバリズム、反DEIといった政治姿勢への共感を公言して憚らない。

事前報道は充実化されたが...

こうした現象を横目に、各社の事前報道における取材対象も自ずと参政党に集まっていた。とりわけ外国人政策については、例えば「外国人の増加で犯罪が増えている」「安い賃金で働く外国人のせいで日本の労働者の賃金も下がっている」といったデマに対し、根拠をもとに否定するファクトチェックの発信や、外国人に厳しいスタンスを示す各党の政策を批判的に検証するものが目立った。 

だが、選挙結果を見れば、そうした報道が外国人に厳しい政策への支持を弱めたようには見えない。前述のように、参政党支持層は敵対的メディア認知が強く、かつマスメディアの報道よりもネットやSNSで「自分で見つけた」情報に価値を感じる傾向が強い。だとすれば、むしろマスメディアによる批判的検証報道は、かえって外国人に厳しい言説への支持を強化した可能性すらある。 

われわれが生きる現代の日本社会には「国籍や人種で人を差別してはならない」とか「正確な事実に基づかない意見や情報は鵜呑みにしてはならない」といった、社会的規範は当然のものとして存在する。そうした規範に基づき、事実に基づかない差別的・排外的な主張があれば批判的に検証していくのは本来あるべき報道の役割だろう。その役割を事前報道のフレームで積極的に果たそうとする各社の姿勢には筆者も共感するところだ。 

しかし、結果として、そうした事実と規範意識に基づく報道が社会に広く届いたとは言い難い点に、今の社会への拭いがたい不安と報道の課題を感じずにはいられない。

本質的な課題解決の必要性

事前報道の不足がメディア不信に直結した2024年の兵庫県知事選の反省を踏まえて、各社が量的公平の呪縛から脱して、質的公平のスタンスのもと、充実した事前報道を行えた点は重要な一歩だ。だがその先に、平時からの政治報道の課題も見えたと感じる。 

「数十年ぶりの物価高の折、既成政党の政治家は十分な対策を講じず、一方で政治とカネの問題を引き起こすなど国民生活を顧みない政治をやっている。その結果、経済的に不遇な国民が増えている――」 こんな世論の潜在意識に共鳴したのが、ネット地盤の強い新興政党だ。彼らは世論、とりわけ現役世代の声に敏感に耳を傾けて、コミュニケーションをとることで支持を劇的に拡大した。先に指摘した参政党支持層に限らず、他のネット地盤の強い新興政党の支持層に共通して、敵対的メディア認知の傾向が強く見られる点は少々気がかりだ。つまり、既存の政治システムや既成政党への不満を投票という「行動」に移した層は、同様に今のマスメディアの報道にも強い不満を持っているのではないだろうか。 

だとすれば、次の課題は、選挙報道の範疇に留まらない。平時の政治報道を含め、報道全体への社会の信頼を取り戻し、強化していくという本質的な課題解決が必要になっている。

求められる「平時からの政治報道の進化」

政治報道は、従来から政局など永田町の「中」の状況にスポットライトを当てがちなのは変わらぬ伝統だ。だが、そもそも誰と誰が会食したとか、派閥の人間関係とか、永田町の中の動きだけで今後の政治の方向性を測るのはすっかり難しくなった。そうした「既成政党のエリート」の動きに反感を持つ大衆が声を挙げ、投票所に足を運ぶ時代になったからだ。結果として自民党は弱体化し、世論の分極化とともに多党制への移行が進んでいる。 

そこで、複雑化する世論、つまり永田町の「外」の声に焦点を当てて、その声に政治が応えているか否かについて政策を軸に検証する。その結果として、選挙での判断材料を普段からしっかりと提供していく。その過程において、決して世論を置き去りにしない。そんな、平時からの政治報道の進化こそがマスメディアに求められる次の課題かもしれない。

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