米国でショート動画がブームに 「マイクロドラマ」も盛況

編集広報部
米国でショート動画がブームに 「マイクロドラマ」も盛況

ショート動画(Short-form vertical video)がいま世界的に拡大している。15秒~60秒程度(最大で180秒)の短尺で、スマートフォンの縦型フルスクリーン向けに気軽に見られるものだ。TikTokやInstagram、YouTube ShortsといったSNSで爆発的に普及したこのフォーマットは、若年層向けのエンターテインメントにとどまらず、広告媒体としても有望視されている。

コンテクスチュアル広告¹ の技術を提供する「Media.net」が今年9月、全米の消費者1,000人超に行った調査によると、73%が1日にショート動画を複数回視聴し、69%が自宅でくつろいでいるときに視聴すると回答。視聴デバイスは81%がスマートフォンで、縦型フォーマットが日常生活に溶け込んでいることが浮き彫りになった。

プラットフォーム別ではYouTube Shorts(56%)、TikTok(50%)、Facebook(50%)などSNS系が中心だが、このほか「ニュースの要約動画(45%)」「ハウツー動画(44%)」といった情報系コンテンツの出版社サイト(パブリッシャー)での視聴ニーズが高く、「SNS専用のフォーマット」には限らないようだ。

ショート動画中の広告への反応も高く、68%が「広告に何らかの形で反応する」と答えている。Media.netは「パブリッシャーにとってショート動画はYouTubeやFacebook、Instagram、TikTokなどのいわゆるWalled Garden(自社環境内に利用者・広告・データを囲い込む巨大プラットフォーム)と競合するうえで、最も有力な武器になりうる」と分析している。

こうした需要に呼応して短尺縦型フォーマットの"オリジナル作品"ともいえる「マイクロドラマ」(Microdrama)も急成長している。1話2分以下の映像を連続視聴させ、さらに先を見たければ専用アプリをダウンロードし、その先に課金が待っているという構造だ。アジアで先行してブームとなり、近年米国にも波及している。ハリウッドでは「DramaBox」「ReelShort」「FlareFlow」といったマイクロドラマ用のアプリが、急速に存在感を高めている。

マイクロドラマの特徴は、制作の速さと低予算だ。長編映画1本分を15万〜20万㌦(2,300万~3,100万円)で撮影し、数十話(1話1~2分)のショートクリップに分割して配信する。「吸血鬼との恋」「CEOとの急展開ロマンス」といったシチュエーションのメロドラマ調の作品が中心だが、幅広い視聴者層をつかんでいる。米オンラインメディア「Variety」は「これまでハリウッドが拾い上げられなかった層に訴求している」と指摘する。

一方、「膨大に制作されるため、パンデミックやストライキで苦しんだ底辺の俳優に雇用を生み出した」といった声もある。SAG-AFTRA(米映画俳優組合)やWGA(米脚本家組合)の組合員は原則としてマイクロドラマに参加できないが² 、ハリウッドの仕事が年々減少するなかで、多くの組合所属俳優らが生活費を稼ぐため匿名や偽名でマイクロドラマにかかわっており、長時間・低賃金労働や安全面の不備などが指摘され、新たな問題になってるいるという。


¹ ウェブページ上のキーワードや文意、画像などをAIが自動で解析し、文脈に合った広告を配信する手法。

² 米国で製作される映画は基本的に組合(ユニオン)規定に基づいて作られる。製作会社はSAGーAFTRAに登録し、許可されるとSAGのメンバーである俳優たちを雇用する権利が得られる。ユニオンに登録せず制作される作品はノンユニオン映画と呼ばれ、SAGに登録していないノンユニオン俳優しか雇用できない。ノンユニオン映画は経験の少ない役者を中心に制作されることになり、質の高い作品を作りたい場合は必然的にユニオン映画にとならざるを得ない。オーディションなどを経てユニオンのメンバーになった俳優はノンユニオンの仕事をしてはいけなくなる。(経済産業省・UNIJAPAN資料「ハリウッドキャスティング」より)


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