米国のドナルド・トランプ大統領は9月25日、中国系の動画共有アプリ「TikTok」の米国内事業を米国主導で存続させる枠組みを承認する大統領令に署名した。2024年にバイデン政権下で成立した「TikTok禁止法」はTikTokの親会社バイトダンスに米国内事業の売却または撤退を求めていた。当初は2025年1月までが売却期限だった(既報)が、これまで繰り返し延期されてきた。これで売却に向けて一歩を踏み出すものとみられる。9月19日にトランプ大統領と中国の習近平国家主席が電話会談で基本的な合意に至ったとされる。
ホワイトハウスの発表によると、現法人の売却完了後は米国内に拠点を置く新たな合弁会社が運営。取締役7人のうち6人を米国人が占める。米国の投資家が過半数の株式を所有し、中国側の出資比率は20%まで。IT大手のオラクル創業者ラリー・エリソン氏を中心に投資ファンド大手のシルバーレイク、アブダビ政府系ファンドMGX、さらにFOXを率いるルパートとラクランのマードック父子、デル・テクノロジーズの創業者マイケル・デル氏らが名を連ねると米メディアは伝えている。大統領令の署名式に同席したJ・D・バンス副大統領はTikTok米国事業の価値を約140億㌦(約2兆円)と評価した。
米中の交渉で焦点になったのはアプリで表示される内容や順序などを決めるアルゴリズムの扱いだ。発表によれば、バイトダンスが既存のアルゴリズムを新会社にライセンス供与し、その後米国のユーザーデータで再訓練して中国からの影響を遮断する仕組みとされる。クラウドのインフラはオラクルが監督し、利用者データの保存も米国内に限定される。しかし潜在的なセキュリティリスクは完全に払拭されていないとの見方もある。
トランプ大統領は署名にあたって「国家安全保障を守りつつTikTokを救う」と強調。大統領令にはTikTok禁止措置の執行を120日間延期する条項も盛り込まれ、最終的な投資家構成や法的事項のクリア、規制当局の承認といった課題解決の猶予期間と位置づけられている。取引の詳細や評価額もまだ確定しておらず、投資家間の調整が続いている。
今回の大統領令は人気アプリを米国で存続させつつ、安全保障上の懸念を抑え込もうとする政治的妥協の産物との見方が強い。若年層を中心に圧倒的な人気を誇るTikTokを一律に禁止することは政治的リスクが大きいからだ。中国資本の影響を強く警戒する議会の圧力も無視できない。米国投資家を前面に立てた今回の方式は双方を満たす折衷策とも受け止められている。ただし、中国当局の最終承認の有無も含めて取引が円滑に成立するかどうかはなお不透明だ。