電通、電通総研で長年にわたって広告業界・メディア業界を考え見つめてきた奥律哉さんの連載です。大きな転換期にある広告・メディアの現在地を確認しながら、さまざまな角度から広告・メディアの未来を展望していただきます。(編集広報部)
「若者の〇〇離れ」。世代間ギャップを語る際の常套句として、この言葉をよく耳にする。〇〇に該当するワードは、読者の皆さんにも心当たりがたくさんあるだろう。
「若者のテレビ離れ」。このフレーズも見聞きする機会は多い。連載第1回で触れたように、テレビにはさまざまな意味が含まれる。今回はその中でも"テレビデバイス離れ"にフォーカスしてみたい。各家庭内でのテレビ視聴環境がどのように構造変化してきたのか、思うところを整理する。
テレビデバイス離れの実態

<図表1 カラーテレビ普及率(総世帯ベース)>
内閣府の消費動向調査では、毎年3月度データに耐久消費財の世帯普及率と100世帯当たり保有台数を公表している。最新の2025年データではカラーテレビの普及率は総世帯ベースで90.3%、世帯主年齢29歳以下で69.0%である(図表1)。若年層は、実に10人中3人が自宅にテレビを保有していない。
テレビが家にない若者が皆さんの周辺にいるのは偶然ではないのだ。親元から離れて一人暮らしをするタイミングで、昔ならテレビは洗濯機や冷蔵庫と同様に必需品であったが、今やテレビなしでも暮らしていけるのだ。彼らには、スマホやPC、チューナレスTV(いわゆるディスプレイ)やプロジェクターという強い味方がいる。
<図表2 世帯主年齢29歳以下の世帯のテレビ視聴環境図>
この状況こそ若年層のテレビデバイス離れと捉えられる。図表2を見てほしい。テレビ普及率を横軸に、テレビ視聴行為者率を縦軸に描いたテレビ視聴環境図である。横軸100%、縦軸100%であれば、あまねく普及を意味し、これはNHKや民放にとっても理想の状態である。
しかし現実はそうはいかない。前述の世帯主年齢29歳以下の世帯を例にとると、横軸テレビ普及率69.0%に対して、縦軸すなわちテレビ視聴行為者率も69.0%と見立てて図示している。つまり、テレビ普及率とテレビ保有者ベースのアクティブユーザー割合を同スコアと見なして、テレビ行為者率を推測している。この図では69.0%×69.0%=約48%となる。結果、対象のデモグラでは、日常的なテレビ行為者率は対象者の約半数と推計される。
この推定式が秀逸なのは、(テレビ普及率)^2(2乗)=テレビ行為者率という速算式である点だ。現在は70%^2=49%であるが、これが60%になると60^2=36%、50%^2=25% と激減のシミュレーションが成立する。
加えて話を複雑にしているのが、コネクテッドTVの存在である。テレビチューナーを搭載し、かつインターネットに結線されているテレビが普及拡大の途上であることは疑う余地もない。結線されたテレビでは、動画配信や動画共有のプラットフォームサービスにアクセスし、多様な動画を楽しむことが可能である。ビデオリサーチ社のSTREAMOデータでは関東地区で結線率は70%を超えている。
さらに市場にはチューナレスTVやプロジェクターがリーズナブルな価格とデザイン性を訴求して販売されている。これらを図表2では「ネット接続(チューナレスTVを含む)」として表現した。矩形(くけい、四角形)の右上が欠ける形となり、放送を受信する前提でのテレビ普及はさらに厳しいことがわかる。
<図表3 ネット接続・チューナレスTVまで含んで考えた場合の視聴環境イメージ図>
一方で、これらのデバイス普及がリビングルームのスクリーン数を維持するドライバーとなっていると捉えられる。放送と配信について、伝送路を選ばない制度設計やそれを前提にするメディアビジネスモデルが構築できれば、図表3のように矩形が拡大し、あまねく普及が"高野豆腐"のようにもとに戻れるポテンシャルを持っている。
サブテレビの減少

<図表4 地デジ化以前の世帯のテレビ保有台数のイメージ。横軸はすべての家(10軒)にテレビがあり、縦軸を見ると2~3台保有する家の割合も多いことを表す>
<図表5 現在の世帯のテレビ保有台数のイメージ。横軸は、ほとんどの家(9軒)にテレビがあるが、縦軸を見れば1台だけ保有する家が多いことを表す>
次に視聴環境の変化で見逃せないのが、サブテレビ(本稿では、各家庭のリビングルームに設置されている大型テレビをメインテレビ、その他の居室に設置されているテレビをサブテレビと呼ぶこととする)の減少である。
一般的な家庭では、かつて2~3台はテレビがあった。しかし現在は、世帯あたりテレビ保有台数が減少している。そのきっかけは2011年に実施された地デジ化に伴う地上波アナログ放送の停波である。国策として実施された地デジ化により、旧放送対応のアナログテレビでは継続してテレビを観ることはできなくなった(東日本大震災被災3県は2012年に延期、ケーブルテレビと衛星放送におけるセーフティネットは除く)。地デジ化に伴うテレビ受像機完全リプレースは、ブラウン管テレビから液晶テレビという別の意味での新しいテレビへの買い替えを意味し、エコポイントによる買い替え促進が奏功し、成功裏に終わった。
しかし各世帯ではメインテレビの買い替えは行われたものの、サブテレビまでは買い替えされないケースもあり、これをきっかけにしてサブテレビの普及台数は減少した。内閣府の消費動向調査(2025年)でも、総世帯でテレビ普及率は前述の90.3%、100世帯あたり普及台数は168台となっている。ちなみに、携帯電話(スマホとガラケー)は総世帯普及率93.9%、100世帯あたり普及台数は195台と、すでにテレビの当該スコアを上回っている。
(サブテレビの減少イメージは図表4、図表5参照)
観られ方の違い、放送波経由か? インターネット経由か?
ここであらためて人々がどのデバイスで映像利用をしているのかを確認しておきたい。引用したデータはビデオリサーチのMCR/exデータ(東京50㎞圏 個人全体 男女12~69才)である。2018年から最新の2025年まで、時系列でグラフ化したものが図表6である。
<図表6 自宅内映像メディア接触時間(個人全体 男女12~69才)>
図表6の左側から、テレビリアルタイム視聴(薄青)、テレビタイムシフト視聴(紫)、テレビ動画(黄)、PC・タブレット動画(紺)、スマホ携帯動画(橙)、再生視聴(ピンク)である。テレビ動画(黄)はコネクテッドTVでのインターネット経由での動画視聴を意味する。PC・タブレット動画(紺)やスマホ携帯動画(橙)は、それぞれのデバイス経由の動画視聴のみを集計したものだ。一般的なネット検索、SNS、ゲーム、ECサイト利用などは集計対象から外して、あくまでも動画視聴に限ってテレビ視聴と比較できるようにしている。再生視聴(ピンク)はブルーレイやDVDのパッケージソフト視聴である。
最新データである2025年の映像メディア視聴シェアの大きな括りは以下の通りだ。放送波経由は、テレビリアルタイム視聴110分とタイムシフト視聴18分の合計128分である。インターネット経由は、テレビ動画18分、PC・タブレット動画13分、スマホ携帯動画22分の合計53分である。再生視聴は3分。放送波経由とインターネット経由のおおよその映像利用時間シェアは128分対53分で7対3となる。
テレビ動画をテレビデバイスでの映像視聴と捉えてそのシェアを再計算すると、「テレビスクリーン」対「その他デバイス」は8対2までシェアを戻す。今後の各世帯内におけるコネクテッドTV普及と利用拡大を見込むと、テレビスクリーンでの映像視聴時間シェアは拡大の余地を残している。私が従来から「一周まわってテレビ」と称していた視聴環境は、この現象を指している。
人々はどのような伝送路を経由して映像利用しているかについては無関心である。一方で、リビングルームにある55インチサイズの大型スクリーンで映像利用するニーズは大きい。くつろいで観る、家族とともに観る、没入する、手元のスマホをメインに大型スクリーンを背景映像として楽しむなど、それぞれの生活者の生活行動の中で各人のオケージョンにあわせて映像視聴を楽しんでいる。
その選択肢の中で、どれだけ自らのサービスが彼らのアイボールを惹きつけることができるのか。以上のようなマクロな映像利用環境を俯瞰し、今後の事業展開の一助になることを期待している。
※【奥律哉の「広告とメディアのミライ」】連載まとめはこちらから

