NPO法人放送批評懇談会(放懇)が選出するギャラクシー賞は、今年で第60回を迎える。1963(昭和38)年に設立された放懇は、規約の中で取り組むべき事業の一つに「優秀なる企画並びに作品の発掘および推奨」を掲げていた。ギャラクシー賞は、それを具現化する取り組みであった。設立してから半年後に早くも年度賞制定の選考方式などの検討が開始され、テレビとラジオそれぞれに「芸能」「教育・教養」「報道」の3部門で各1作品計6作品を選出、その年度の入賞作とすることにした。翌年に、第1回ギャラクシー賞の授賞式を挙行している。その後ギャラクシー賞は、大賞・優秀賞・特別賞・選奨といった賞のカテゴリーを徐々に増やし、個人賞やDJパーソナリティ賞で個人の顕彰も行うようになった。また、選考にあたる選奨委員会をテレビとラジオ2部制にする(28回)、CM部門(33回)と報道活動部門(40回)を新設するなど、審査体制や贈賞対象の拡充を図ってきた。
放送文化の向上のために
筆者がギャラクシー賞の選考に関わるようになったのは世紀の変わり目のころで、直接経験したのは60回のわずか3分の1程度にすぎない。だが、放懇60周年にあたり設立時の資料を読み直す機会があり、審査体制や贈賞対象が変わっても、ギャラクシー賞創設の精神を60年間変わらず受け継いでいる点が多々あることがわかった。第1回の授賞式の様子を報じた『放送批評懇談会ニュース(会員向け会報)』17号(64年5月)で、理事でテレビ部門の審査員でもあった白井隆二が、次のようなことを書いている。「放送批評懇談会のギャラクシー賞は、(中略)既設の賞に見られるようなコンクール用のものであってはならない。これは年間を通じて、ラジオ、テレビの優秀番組を表彰し、これを放送文化の向上に役立てようとするからには、当然のことといえる」。この精神を実現するために第1回ギャラクシー賞では、正会員(放送批評にたずさわる者)と賛助会員(視聴者)から年間の優秀番組を推薦してもらうアンケートを実施し、これを審査の基礎資料とした。このアンケート結果を踏まえて審査委員会で候補作品をノミネート、最終的に審査委員の投票で候補作品の中からギャラクシー賞を選んでいる。
白井の言葉や第1回審査の実施方式に、受け継がれてきたギャラクシー賞のアイデンティティとでも言うべきものが、端的に現れているように思われる。「年間を通じてラジオ、テレビの優秀番組を表彰し」という点については、主催者の依頼により選考時に招集される審査委員会方式とは違い、ギャラクシー賞では常設の選奨委員会委員による日常的な批評を基礎にしている。当初は年度賞のみだったものが、3カ月ごとの期間選奨となり(5回から)、月間で賞を選定する(14回から)ように発展していく。現在では、放懇が発行する月刊の『GALAC』誌上で選考経過が公開されているように、テレビ部門では月間賞を選定、ラジオ部門とCM部門も月例会を開催してラジオ番組やCMの批評成果を持ちより選考に当たっている。また、報道活動部門も委員が収集した各局の報道活動の情報を意見交換する機会を定期的に設けている。
視聴者やリスナーの支持が前提
また、賛助会員(視聴者)から優秀番組を推薦してもらう第1回審査の試みについて、白井は「ギャラクシー賞が、少数の批評家たちに選ばれた賞である前に、大巾な視聴者層の支持を前提にして、つくられたものだということを意味している」と、その趣旨を述べている。この点についても、2005年放懇がNPO法人になった翌年にWeb会員(現Gメンバー)として賛助会員制度が復活した。設立当初のギャラクシー賞の精神は、Web会員と正会員の投票によって選ばれるマイベストTV賞として新たな形で現代によみがえった(44回)。
以前は、ギャラクシー賞の受賞者や制作した放送局の反応がまったく伝わってこず、選考結果に関心がないのか、もしかして迷惑だとすら思っているかもしれないと心配したものだった。それに比べ最近は、出演者や制作者などの番組関係者が、ギャラクシー賞の月間賞や年間賞受賞を喜び、番組内で「祝ギャラクシー賞受賞」とのテロップなどとともに、その喜びを伝えてくれるケースが多くなったように感じている。視聴者やリスナーもSNS上で、「今日の放送は神回、ギャラクシー賞取るのでは」などとギャラクシー賞に言及してくれている。このようにギャラクシー賞の存在が浸透したのも、選奨を担ってきた先輩会員たちの60年にわたる批評活動の積み重ねの結果と感謝している。それと同時に、ギャラクシー賞の存立が、制作者と視聴者・リスナーの支持を前提にしたものであるとの思いも、あらためて噛み締めている。
メディア環境の変化に対応していく
一方で、ギャラクシー賞は、放送をめぐる環境変化にも対応していかなければならない。放懇では60周年を前に、若手会員を中心としたプロジェクトチームを立ち上げた。プロジェクトチームには、選奨委員会にヒアリングし、新しい選奨の体制について検討・提案してもらった。その際特に議論の焦点となったのは、OTTなどのウェブのみで配信される作品の取り扱いである。近年、ウェブ配信作品には、量質とも放送番組に遜色ないレベルに達しているものも多い。他方、批評を通じた「日本の放送の健全なる発達」(設立時の規約第3条)を志向してきた放懇のレゾンデートルを大事にしたい。ウェブ配信作品をギャラクシー賞の審査対象にするのは、時期尚早との意見を述べる会員も多かった。
第60回の段階では、企業などの広告展開でウェブCMが大きな比重を占めるようになったことを踏まえCM部門の審査対象にこれを加えた。また、放送の未来を切り開く取り組みを顕彰するフロンティア賞については、正会員や委員会から広く推薦をもらい会全体で選考する形にした。ウェブ配信作品については、マイベストTV賞の年間投票にGメンバーや正会員が推薦したウェブ配信作品も候補作品に加える改革を行った。放懇では今後も、放送に資する批評のあり方を追い求め、65回、70回とより適切な選奨制度について検討を重ねていく予定である。ギャラクシー賞は、変化も恐れてはいけないと考えている。