TOKYO MX・丹波忠寛さん 20周年を迎えた『5時に夢中!』 "何も持たざる番組"だからこそできること【制作ノートから】⑬

丹波 忠寛
TOKYO MX・丹波忠寛さん 20周年を迎えた『5時に夢中!』 "何も持たざる番組"だからこそできること【制作ノートから】⑬

民放onlineは、シリーズ企画「制作ノートから」を2024年2月から掲載しています。第13回は東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX、東京エリア:地上波9ch)の丹波忠寛さんに、この4月に放送開始から20周年を迎えた情報ワイド番組『5時に夢中!』について執筆いただきました。

現在の番組出演者は下記のとおりです(敬称略)。
〈MC〉垣花 正(月〜金)、大島由香里(月〜木)
〈アシスタント〉ミッツ・マングローブ(金)
〈コメンテーター〉マツコ・デラックス(月)、若林史江(月)/岩下尚史(火)、北斗晶(火)/松田ゆう姫(水)、ヒコロヒー(水)/岩井志麻子(木)、中瀬ゆかり(木) /中尾ミエ(金)

8月の放送5,000回に向け、TOKYO MXならでは独特のスタンスを貫きながら、長寿番組として定着してきた秘訣を振り返っていただきます。作り手の思いに触れ、番組の魅力を違った角度から楽しむ一助にしていただければ何よりです。(編集広報部)


TOKYO MXで放送中の『5時に夢中!』は、月曜から金曜の夕方5時から1時間にわたって生放送でお送りしている情報ワイド番組です。2005年から始まったこの番組は今年4月で20周年を迎え、8月には5,000回を迎える長寿番組となりました。11月に開局30周年を迎える当社としても、最も息の長い番組のひとつだと思います。

「情報ワイド」と説明しましたが、ひとくくりに「こういう番組です」と説明するのは担当している私でも難しい番組です。ワイドショー的な形を借りていますが、コメンテーターの方々のパワーを発信するトーク番組的な側面もありますし、テレビ的な演出や発言を乗り越えていく精神はバラエティ番組や今で言うYouTube的な側面もありますし、視聴者との近さで言えばラジオ番組的な側面もあります。

手前味噌ではありますが、このように多面体的な番組として成長できたことが、結果としてこの20年をなんとか生き延びてこられた要因だと感じています。これは、言うまでもなく、番組を支えてくださった視聴者や出演者の皆さんのおかげです。感謝の言葉もありません。 

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東京で生きる人たちへの共鳴

ただ、このようにいろんな側面を持つ番組ではありますが、制作者として大事にしていることはとてもシンプルで、昔からほとんど変わっていないように思えます。

TOKYO MXは東京にありながらローカル局であるという特性を背負っています。少し大げさですが、それは番組をとおして「都会にある孤独」や「メジャーの中にいるマイナー」といった違和感を否応なしに見ている人に突きつけてきます。そういった局の宿命に呼応するかのように、「普通」とはちょっと違う生き方をしてきたコメンテーターに自由に発言してもらうことを信条として『5時に夢中!』は誕生しました。

自由な発言の中に垣間見える、マスに飲み込まれずに生きる強さや、違いや失敗を肯定してくれる優しさに、東京の生きづらさを生きる人たちの共鳴が生まれたのだと思います。ありがたいことに、今もそのTOKYO MX=『5時に夢中!』=視聴者をつなぐ目に見えない糸は変わらないですし、その共感性は私たち制作者が番組の中で大事にしていることです。

また、時間帯と制作スタイルも変わっていません。出演者の方もたびたびネタにしていますが、予算はキー局などの帯番組と比較しておそらくかなりコンパクトです。それに伴いマンパワーも潤沢とは言えない中で番組を作るにあたって、『5時に夢中!』は効率の良さと番組のダイナミズムを両立させることに成功してきたと言えます。

今でも残っている、番組を立ち上げた先輩方が作った骨組みはたくさんありますが、主要なところですと▶完パケ化の編集に時間とお金をかけない生放送であること▶1時間の番組をコメンテーターの話で埋めてもらえるようにスタジオ展開を多用すること▶話のタネとして、時事性があり、かつ人間のペーソスが表れ、さらには裏のニュース番組とかぶらない夕刊紙的ニュースを扱うこと▶視聴者からのお便り読みにちゃんと時間を割くこと――などがあります。

これらの副産物として、「コメンテーターが尺に縛られずに自由に発言する」「政治から下ネタまで真正面から扱う」「夕方に在宅している視聴者が番組を見てスッキリする」「視聴者と番組の距離が近い」といった番組の個性がより際立つことになりました。時間帯と制作スタイルの化学反応で生まれたこのある種のワイルドさのようなものも、時代に合わせて手入れをしながら大事に使い続けています。

番組が持つ変わらないものの話をしてきましたが、時代はこの20年で大きく変わりました。
4:3だったテレビ画面は16:9になり、携帯電話がスマホになり、いわゆるマイノリティだった人たちは多様性を重んじる文化に身を置くことになり、失敗に対しておおらかな時代がほぼ終わり、テレビの中の表現に視聴者のコンプライアンス意識が向くことになりました。全て『5時に夢中!』に関係する変化です。

そんな変化に戸惑いながらも、"何も持たざる番組"が、ポンコツだからこそ一生懸命進んでいく姿を、視聴者に見てもらうことは使命だと感じています。格好良くなくても前を向いて歩くということは、前述した番組の根幹にも深く関わっているからです。

TVerに参加~全国の視聴者に向けて

この4月、20周年を機に番組はTVerに参加しました。生放送の番組での発言は生ものなので、見逃し配信に際して正直私としては少し躊躇がありました。アーカイブ化を意識して出演者の発言内容が変わったら本末転倒だな、と。そのタイミングで過去の同録を3カ月分ほど見返してみましたが、アーカイブされて問題になりそうな内容はありませんでした(当たり前ですが)。20年前だったらそうはいかなかったかもしれません。時代に合わせて出演者も制作者も少しずつ順応してきたのではないでしょうか。

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そんなTVerも含めて、20周年を機に、この局、この番組だからこそ生まれた視聴者の皆さんとのつながりをあらためて大切にしたいと考えています。番組グッズの開発・販売や番組観覧など、特にこの1年は視聴者と番組との接点を増やす施策を打っていくつもりです。20年を駆け抜けた番組を、より多くの視聴者とお祝いできたらこれ以上の喜びはありません。

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