30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。25回は、朝日放送テレビ(ABCテレビ)の花田響四郎さんです。テレビの広告収入の大部分を占めるスポットCMをデスクとして管理する花田さんに、テレビ広告の魅力と可能性を語ってもらいました。(編集広報部)
テレビのスポットCMとは
子どもの頃からの憧れだった、テレビ局で働くという夢――。
あの頃の私は「俺、テレビ局で働いてるねん」と、同窓会や親族の集まりで胸を張って話していました。そんな私も今、入社6年目。営業局でスポットデスクを担当し、日々テレビ広告の最前線にいます。
「スポット」とは、番組単位でスポンサーを募る「タイム」とは異なり、ABCテレビのタイムテーブル全体を対象にCM枠を販売する業務です。企業の出稿期間、予算、ターゲットに応じて、どの番組にCMを流すかを提案し、視聴率1%あたりの価格(コスト)を決定しています。
幅広い番組にCMを流すことで、一気に認知度を高められるという利点があり、今なお高いニーズを誇るため、テレビ局の放送収入の大半はスポットセールスによるものです。しかし、視聴率=商品量であり、発注に合わせて「増産」はできません。編成状況や視聴率の傾向からコストの上下を日々判断し、発注過多を避けつつ、他局ではなくABCテレビに発注をいただけるよう、広告代理店やクライアントと交渉を重ねています。
そんな中で、視聴率は年々下降傾向にあります。つまり、スポットという大きな収入源そのものが減少しているのです。私は毎朝、前日の視聴率を確認するのが日課で、この番組のこの時期の数字は大体これくらいだな、と瞬時にわかるほどの視聴率マニアです。おそらく全国のスポットデスク担当者も同じでしょう。だからこそ、テレビ局の中で視聴率の低下を最も肌で感じている職種かもしれません。
日々変わりゆくメディア環境の中で、かつてとは違う意味で「俺、テレビ局で働いてるねん」という言葉の重みを感じるようになりました。
広い層へのリーチ、認知率の向上――テレビの強みとは?
テレビはインターネット広告やSNSのようなパーソナライズされたターゲティングにはない、「広い層へのリーチ」が強みだと言われています。そして実際、それは今でも間違いなく大きな魅力です。クライアントから「CMのおかげで認知が広がった」と声をいただいたとき、新規のスポンサーから「CMがたくさんの人にリーチして成功した!」と喜ばれ、次回さらに大きな出稿につながったとき、大きなやりがいを感じます。
ただ、今後もそれを「テレビCMの強み」として、何も考えずに言い続けるのは避けるべきだと思います。
私たちが向き合う現実として、視聴率の低下やメディア環境の変化は避けられません。今や、テレビの視聴スタイルは大きく多様化しています。リアルタイムで見る人が減る一方、TVerやYouTubeなど、さまざまなプラットフォームでの視聴が当たり前に。それは「テレビ離れ」ではなく、実は「視聴者との新しい接点の始まり」だと、私は捉えています。テレビが新たな可能性を模索し、より多様な視聴スタイルに応えていくチャンスでもあります。
「テレビコンテンツは見られてなんぼ」
だからこそあらためて思うのは、「テレビは見られてなんぼ」。いや、"テレビ局がつくるコンテンツは見られてなんぼ"だということです。
たとえば、20年前に100万人がテレビで見ていた番組も、今後はテレビ、TVer、その他のプラットフォームを通じて、同じように100万人、ないしはそれ以上の人数に届く可能性があります。つまり、リアルな"視聴率"が減ったとしても、時間差で視聴され、結果的に"視聴者数"が維持されるなら(いや、場合によってはそれ以上の数にも!)、新しい広告モデルの可能性があります。多様な視聴環境にしっかりと向き合い、柔軟な広告の仕組みを構築することが鍵になると考えています。広告取引の最前線で働く、私たちのようなスポットデスクにこそ、これから広がってゆくであろう"新しい世界"のクリエーター的な役割と発想を求められると思います。
たとえば、今年3月にABCテレビが放送した『ACN EXPO EKIDEN 2025』では、"駅伝中継映像"+"CM映像"+"静止画広告"の3つを組み合わせた「トリプルスクリーン」でのCM(=冒頭写真)を実施しました。番組本編とCMを同時に展開することで、視聴者がコンテンツに触れ続けやすくなり、「視聴率が落ちにくい」設計となっていたのが大きな特徴です。さらに、静止画を組み合わせることで、動画広告を含め、より印象的な広告メッセージ訴求が可能になりました。視聴者に広告主のメッセージを立体的に届けるための工夫から、テレビCMの新たな可能性を強く感じました。
視聴者との"新しい関係"に向けて
YouTubeや他プラットフォーム向けの動画コンテンツの制作もテレビ局にとっては当たり前になっていますが、制作力や信頼性において、テレビ局は未だに他に負けていないと思います。今は、視聴率という一つの指標にとらわれるのではなく、コンテンツの力を信じて、視聴者との"新しい関係"を築くことが求められる時代。テレビ局が制作してきた番組が生み出す感動や驚き、共感。その輪はこれからの時代にも広げられると信じています。
そしてTVerや他プラットフォームへの番組販売に加え、スポットCMも含めて、「その番組の広告をどう売るか」を起点に、ときには今までの業界の常識を超越するような取り組みも必要となるでしょう。それは1局だけではなく、地域を超え、全国のテレビ局や広告会社が手を取り合って取り組むべき課題だと感じています。そうすれば「テレビCM」はさらに進化し、広がっていけると信じています。
テレビ局という枠にとらわれず、他局様や広告会社様と連携しながら、もっと柔軟に、もっと面白く、「番組と広告の新しいカタチ」を創り出していきたい。そしてこれからもずっと胸を張って、こう言いたいのです。
「俺、テレビ局で働いてるねん」と。