世界最大級の広告・クリエイティブコンクール「カンヌライオンズ2025」が6月16~20日にフランスのカンヌで開かれた(各賞の結果は公式サイト〔外部サイトに遷移します〕参照)。本稿ではメディア各社が毎年、広告主向けの新たな広告支援サービスを発表している。コネクテッドTV (CTV)の普及と広告入り配信プランの拡大を背景に、今年はNBCユニバーサル(NBCU)、Disney、Roku、Netflixなどの米大手メディア・配信各社がプログラマティック広告(運用型広告)の分野でテック企業との戦略的な連携を打ち出している。
▶ウォルマートとの連携を強化するNBCU
コムキャスト傘下のNBCUは米小売チェーン最大手のウォルマートとの提携を拡大すると発表した。NBCUのスポーツ中継の広告枠でウォルマートが持つ豊富な顧客データを活用して高度なターゲティングとクロスプラットフォームの効果測定を行うという。2026年のミラノ・コルティナ冬季五輪、NFL、NBA、サッカーのプレミアリーグなどが対象だ。一部の広告主は2025年第4四半期から配信とリニア(従来型テレビ放送)の両方で広告効果を測定できるようになる。すでに両社は24年秋から試験運用を実施しており、ウォルマートの自社キャンペーンでは広告費に対して4倍のリターンが得られたと報告されている。
▶DisneyはAmazonとシステムを提携
Disneyはオンラインで同社の広告取引ができるシステム「DRAX(Disney Real-Time Ad Exchange)」と、Amazonが提供する広告配信プラットフォーム「Amazon DSP(Demand-Side Platforom)」を提携すると発表した。広告主はDisney+、Hulu、ESPNなどDisney傘下の配信サービスの広告枠の在庫状況にアクセスできるようになり、Amazonの顧客データと視聴行動分析を活用した精緻なターゲティングが可能となるという。例えば、AmazonのEコマース(オンラインショッピング)上でペット商品に関心を示す視聴者がいると、Disneyのコンテンツ内でペットフード広告を表示するといった連動が想定されている。Amazonの広告ソリューション部門Amazon AdsとDisneyは今後数カ月以内に一部の広告主を対象にこの拡張機能の導入を開始する予定だ。
▶RokuもCTV広告でAmazonと提携
CTVの分野で市場制覇を目指すRokuもAmazonとの提携を発表した。Roku OSとFire TV OS上でログイン視聴中のユーザーにAmazon DSPを通じた広告配信が可能となる。対象はRokuチャンネルやAmazon Prime Videoだけでなく、Disney、Fox、パラマウント、Tubi、ワーナーブラザース・ディスカバリー(WBD)などの配信サービス全般。この提携で米国のCTV世帯の80%以上にあたる約8,000万世帯に広告を届ける体制が整うと発表されている。初期テストでは同一予算でユニーク視聴者数(重複を除いた実際の視聴者数)が40%増加し、広告の重複露出を30%削減、広告価値を3倍に向上させる効果が確認されたという。両社は「前例のないスケールで個別ターゲティング可能な視聴者層にリーチでき、広告効果測定、最適化、プランニングのあらゆる面でのパフォーマンスが向上する」と強調。CTVを強力な広告メディアへと進化させたいとしている。
▶NetflixはYahooと提携
配信最大手のNetflixも広告入りプランの成長を背景にYahooと提携する。YahooのDSPを通じて、広告主がNetflix内の広告枠を自動で購入できるようになる。NetflixはこれまでにもThe Trade Desk、Google、マイクロソフトと同様の提携を進めており、Yahooの参画で広告主の選択肢がさらに広がる。この機能はNetflixが広告入りプランを展開している米国を含む全12カ国で年内にも提供が開始される予定だ。
*
配信広告の市場は今後も拡大が見込まれる。CTV広告市場だけでも2025年には335億㌦(約4兆9,000億円)に達するとの予測もある。配信事業へのシフトが着々と進み、広告主はこれからは単なるリーチ数から「誰に、いつ、どのように届けるか」という質的な指標をより重視する。メディア各社もそれぞれのコンテンツ力と技術基盤を駆使したデータ連携で差別化を図る段階に入った。今回の一連の提携は効果測定の精度向上や投資対効果の最大化を広告主にアピールする動きだと米メディアは報じている。