「人権ファースト」を徹底する企業への再生~フジテレビジョン 1年の取り組み【シリーズ「人権」⑮】

吉田 優子
「人権ファースト」を徹底する企業への再生~フジテレビジョン 1年の取り組み【シリーズ「人権」⑮】

民放onlineはあらためて「人権」を考えるシリーズを展開中です。憲法学、差別表現、ビジネス上の課題、ハラスメントの訴えがあったときの企業としての対応、などを取り上げてきました。15回目はフジテレビジョンの吉田優子さんに、一連の事案をふまえ、企業として人権問題にどう向き合ってきたのか、その取り組みを共有いただきます。民放連会員各社もガバナンスやコンプライアンスの取り組みを進めているなかで、本記事がその一助となりましたら幸いです。(編集広報部)


「再生・改革プロジェクト本部」の取り組み

2025年1月17日――。タレントによる元女性社員に対する性加害報道を受け、フジテレビジョン(以下フジテレビ)は、人権問題に企業としてどう向き合うのかが問われる重要な局面を迎えていました。世の中の関心が寄せられるなか、当時の経営幹部は、放送局であるにもかかわらず、テレビカメラを入れないクローズドな会見を選びました。 その結果、"事後対応の失敗"として世間から痛烈な批判を浴び、その日を境に、広告主が相次いで撤退を始めました。その10日後、10時間超えの会見を経ても沈静化しませんでした。2月6日、就任直後の清水賢治新社長が自らを本部長とする「再生・改革プロジェクト本部」を立ち上げ、以降、フジテレビは「人権ファーストの徹底」を掲げ、再生・改革の歩みを始めました。当時、総務部長を務めていた私は、同プロジェクト本部のメンバーとして、一連の再生の取り組みに関わることになりました。

人権侵害の可能性がある出来事が起きた際、企業として正しい対応がとれなかったことにより、当社は社会的な信頼や信用を失っていきました。そうした危機的状況のなか、会社としてまず行うべきは、社内の人権課題や人権リスクを把握し実効性のある対策を早急に打つことでした。

しかし、事態を把握しようとも、会社として調査を委嘱した第三者委員会による調査が進むなか、社員へのヒアリングは調査の妨害となり実施できない状況でした。唯一可能だったのは、人権デュー・ディリジェンスの観点から「対話」を行うことでした。混乱下における対話は、社員の不安や不満を受け止め、心理的安全性を保ちながら進める必要がありました。外部専門家に同席をいただきながら、慎重に、社員一人一人の声に耳を傾ける作業が始まりました。

当時、再生・改革プロジェクト本部が置かれていた会議室では、昼夜を問わず、清水本部長を囲み、人権課題の分析や必要な施策に関する議論が行われていました。本部の下に設置された20~30代を中心とする「再発防止・風土改革ワーキンググループ(以下WG)」では、今回の事案で、権力勾配がある関係性における会食の場などが問題視されたことから、会食・会合のためのガイドラインはどうあるべきかや、人権尊重を最優先にするという意識を全社に浸透させていくための「ハラスメント根絶宣言」(=冒頭写真)はどうあるべきか、などが話し合われていきました。今では社内のあらゆる場所に掲示されているポスターも、「ハラスメントをしない、させない、見逃さない」というメッセージはもちろん、押しつけられたと感じないようなデザインにしたいと、若手社員たちが議論を重ねました。

そうしたWGの作業と並行する形で、プロジェクト本部では、全局室の社員111人との対話や労働組合との対話、そのほか外部の出演者や番組制作に関わる団体などとの対話を実施していきました。3月31日には、対話を通じて把握したあらゆる課題を整理し、必要な施策をまとめた「再生・改革プラン」を策定しました。人権リスクの発生頻度や深刻度の高低を表した「人権リスクマップ」も、「ビジネスと人権」が専門である外部弁護士の指導を仰ぎながら作成しました。平時につくる人権リスクマップとは異なり、企業としての人権意識が問われる非常事態下で作る人権リスクマップは生々しく、「開示」はリスク管理を行う上で必要かつ前向きな作業だと頭では理解しながらも、大きな覚悟を要することでした。

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<2025年3月31日に公表した「人権リスクマップ」>

人権リスクマップから、人権意識向上のために必要な課題、改革のロードマップまで、都度、清水本部長のフィードバックを反映しながら「フジテレビの再生・改革プラン」が出来上がっていきました。3月31日に公表された第三者委員会の調査報告書が指摘する課題は、ほぼこのプランに網羅されていました。しかし、現実には、性加害の事実や「ハラスメントに寛容」といった調査報告書の衝撃的な内容が大きく報じられる結果となり、「フジテレビの再生・改革プラン」は作成にかけた労力に比してさほど注目されませんでした。

3月末の反省を踏まえ、4月末から始まった総務省への報告資料から、「フジテレビ再生・改革に向けた8つの強化策」として発表していくことになります。3月末に発表した「再生・改革プラン」に、第三者委員会からの指摘や改善点を盛り込み、「人権・コンプライアンス意識向上・体制強化」と「ガバナンス改革・組織改革」の2つのテーマでくくり、さらに、8つの具体策として、細かく分類していきました。「編成・バラエティ部門を解体・再編 アナウンス室を独立へ」「楽しくなければテレビじゃないからの脱却」といった象徴的な表現も、まずはこの改革に目を向けていただくためでもありました。以降、社を挙げて改革が実行されていきました。テーマごとに進捗状況を管理しながら、必要な施策を社内の会議体にはかり、取締役会で承認を受け、毎月末に改革の進捗を開示するという作業を繰り返しました。

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<「フジテレビ再生・改革に向けた8つの強化策」2025年6月の進捗状況について>

事案を受け、取材相手や取引先などからの(もしくは逆に社員から取引先への)カスタマーハラスメントへの対策の不備も指摘されました。それを受け、「カスハラ対策マニュアル」を策定し、研修で周知、さらに、対外的に姿勢を示すためにも、「カスタマーハラスメント対応に関する基本方針」を策定し7月31日に公表しました。さらに、既存の「コンプライアンスガイドライン」を改訂し、カスハラについても新たに言及したほか、ハラスメント処分の厳正化についても盛り込みました。従来も存在していた社内外の相談窓口については、より信頼度を高めるため、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」をふまえた形へ改善しました。

特に、弁護士が直接受ける社外相談窓口は、必要に応じて外部の臨床心理士によるケアも受けることができるようになりました。リスクマップによって浮き彫りになった、社内の人権リスクや課題ひとつひとつに必要な対策を講じる取り組みは半年以上続きました。その後、強化策は8月にはほぼすべてが実行済みとなり、総務省への定期的報告を終えた後も、ステークホルダーの皆さまに向けた開示作業は続いています。

「再生・改革プロジェクト本部」から
「サステナビリティ経営推進室」へ

7月の大規模な組織改編をもって「再生・改革プロジェクト本部」は発展的に解消し、新設の「サステナビリティ経営推進室」が中心となって再生・改革の旗振り役を担っています。コンプライアンス推進室は社内での位置づけや体制を強化し、コンプライアンス推進局となり、サステナビリティ経営推進室と連携をして、人権尊重を徹底する仕組みや意識づくりを続けています。昨年実施したアンケートをもとに過去のハラスメントに対しても、申告があったものについては調査を行い、フィードバックを継続的に続けています。2026年は、このアンケートや相談対応をふまえたより実践的な研修も全社展開する予定です。

さらに、人権および人的資本を重視するサステナビリティ経営を実現するため、幅広い議論を行う仕組みとして「サステナビリティ経営委員会」が4月に新設されました。委員長は代表取締役社長、メンバーとしては全執行役員と全局室長が参画し、毎月開催されています。そして、委員会での議論は、3人の外部アドバイザーに報告されます。いずれもジェンダー平等や人権デュー・ディリジェンス、人的資本経営に関する豊富な知識と経験を有する有識者で、当社の取り組みの方向性や、重要になる考え方、留意すべき点などについて、定期的に助言・モニタリングを受けます。

また、個別施策の検討や進捗管理を加速、推進する観点から、委員会の下に、4つのプロジェクト(PJ)を設定しました。「人権PJ」「人的資本経営PJ」「リブランディングPJ」「気候変動・環境PJ」に分かれ、部署横断的に議論と施策を進めています。「再生・改革プロジェクト」に当初から関わった一人としては、人権意識向上の取り組みが会社全体に裾野を広げている様子に確かな変化を感じます。

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<2025年4月に発足した「サステナビリティ経営委員会」の取り組み
(2025年12月22日現在)>

コンテンツカンパニーとしての再出発を誓う

この1年で、フジテレビの組織や制度はガラリと変わり、人権意識も大きく変化してきているのを感じます。一方で、その人権意識の変化を、社員一人一人、会社の隅々にまで浸透させ、なおかつ持続させることは、会社として、社員として、不断の努力が必要であり、まだまだ始まったばかりです。2026年、フジテレビは、コンテンツカンパニーとしての再出発を誓っています。私たち、コンプライアンス推進局としては、人権尊重を最優先とする姿勢を大切に、制作現場に寄り添いながら協働による取り組みを継続していきたいと考えています。

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