ローカルニュースの"砂漠化"が懸念される米国で、連邦政府だけでなく州レベルでのローカル・ジャーナリズム支援策が模索されている。8月21日にはカリフォルニア州で全米初の"画期的な合意"が成立したと注目を集めている。同州議会のバフィー・ウィックス議員(民主党)の発表によると、同州とGoogle、Metaの IT大手が共同で今後5年間に総額2億5,000万㌦(約353億円)を拠出し、州内のローカルニュース媒体を支援するための基金と報道機関向けAIの開発を後押しするプログラムを立ち上げるという。「州・IT大手共同基金」を新設し、州内のローカルニュース媒体に総額1億7,500万㌦を助成する計画だ。
一方、同州の議会で審議中のジャーナリズム保護のための法案は棚上げされることに。同法案は報道機関の記事などをオンライン上で使用する場合、IT企業が使用料を支払うことを義務づけるとともに、その金額は両者が直接交渉して決めるとの内容だった。
GoogleとMetaはメディアとの直接交渉や使用料を免除される代わりに、それぞれ5,500万㌦を共同基金に投入。カリフォルニア州も7,000万㌦を出捐する。カリフォルニア大学バークレー校が基金を管理し、ローカルニュース媒体に助成金という形で支給される。7,000万㌦の財源は州民からの税金で賄うため、実質的にはローカルニュースを住民が直接支援するというスキームが「画期的」と評価されているわけだ。
カリフォルニア新聞出版社協会(CNPA)のジュリー・マキネン会長はこの合意を「業界として求めていた内容とは異なるが、それでも長期的にローカルニュースを守っていくための第一歩。今後も合意内容とプログラムのさらなる充実のために働きかけていく」と歓迎。同州のギャビン・ニューサム知事も「州民に新たな税金を課すことなく、州全体の報道機関の存続を確保し、地元ジャーナリズムを強化する第一歩となる」とコメントしている。
さらにIT大手はAI開発プログラムにそれぞれ年1,250万㌦を投入する。ただし、同州のデジタルニュースサイト「CalMatters」は、AIによって職を奪われる可能性を危惧する労働組合の不安を煽っていると報じている。業界の各種労働組合は、今回の合意内容を「不十分だ」として反発しており、「議員とメディアがIT大手に屈した」といった声もあるという。
全米放送事業者連盟(NAB)もこの合意に批判的だ。「ローカル・ジャーナリズムの持続可能性を危険にさらすだけでなく、大手プラットフォームが正当な対価を支払わず、地元メディアの努力をかすめとるもの」と激しく非難。連邦政府で立法化を検討中の「ジャーナリズム保護法案」(JCPA)の成立が急務との立場を表明した。JCPAは報道機関各社がかねて切望していたもので、IT大手との記事利用料をめぐる直接交渉の権利を求めるもの。しかし労組やNABの反応とは異なり、「それでもローカルニュースの勝利だ」と高く評価する声もあり、今回の措置への反応はざまざまだ。
米ニューヨーク州の上院議会も今年4月末、ローカル新聞社や放送局を支援するための法案を可決している。 州内の報道機関に2025年から3年間で9,000万㌦(年間3,000万㌦)の税額を控除するというもの。これも米国では初めてともいえる大規模なローカルメディア支援・保護措置として注目を集めた。カナダでも23年6月オンラインニュース法が成立。報道機関が対価を求め、IT企業と団体交渉することが認められた。