能登半島地震 地元局の1カ月を聞く

編集広報部

1月1日16時10分ごろに発生した能登地方を震源とする地震は、石川県輪島市と志賀町で最大震度7を観測、この地震により津波が発生したほか、家屋の倒壊、山崩れなどが能登地方の各地で起こり、甚大な被害が出た。石川県の民放各局は発災直後から社を挙げて取材・報道に取り組んだ。「民放online」では2月上旬に北陸放送(MRO)、石川テレビ放送、エフエム石川、テレビ金沢、北陸朝日放送に報道対応を中心に話を聞いた。

翌2日から被災地へ

地元テレビ4局は発災後からCM抜きの特番に移行するとともに情報の収集にあたった。その間に社員らが本社に集合、同日夜には系列局からの応援も到着した。各社、発災時の報道スタッフは3―7人だったうえに、元日という事情もあり、遠方に帰省しているスタッフもいたことから人員が集まるのに時間がかかったという。アナウンサーが一人で報道特番に対応、避難の呼びかけなどを続けざるを得なかったとの声もあった。

MROは、1班につき3、4人で構成される撮影クルーが発災直後に輪島・珠洲に向けて出発。地震により道路には亀裂や陥没、さらには土砂崩れなどの影響もあり、同局のクルーが輪島市に到着できたのは2日の午前で、珠洲市に入れたのは3日になってからだった。取材態勢は、同局の4班と、JNNからの応援の8班で、応援記者の派遣は同系列の15局から。石川テレビは、翌日から能登の玄関口となる穴水町に向かった。2月2日時点で、同局からの3班とFNN系列から3班の計6班体制をとっており、応援記者は延べ140人程度となっている。テレビ金沢は、1日に最大震度7を観測した志賀町に向かい、同日23時には同町から中継を行った。2月4日までにNNNの応援記者は26局から70人。北陸朝日放送も取材クルーはすぐに被災地へ。発災から1時間後には石川に帰省中だったテレビ朝日のアナウンサーと技術担当者の2人が本社に到着、現地リポートやテレビ朝日との連携などで力を発揮した。ANNは11班前後が取材で現地入り。これらに加えてキー局などの各報道番組のクルーも現地に入り、取材や中継を行った。

被災地では広い範囲で断水が続いており、各局とも取材基地とした宿泊施設で水が使えないことから、これまで1週間程度が一般的だった現地での取材期間を短縮。最大5日程度からの日帰り取材のみと幅はあるものの、記者の健康に配慮するシフトを組んだ。金沢からの日帰り取材のみで対応したのはNNN。宿泊を伴う取材を行ったその他の系列は能登町や七尾市に取材拠点を置いた。輪島市の火災などの様子を捉えたヘリコプターは、東京、大阪、名古屋の局から派遣された。一部の系列では新潟局や静岡局のヘリも取材対応を行った。

ロジ対応が課題に

今回の取材から見える課題を尋ねると「ロジスティクス」との声が各局からあがった。断水だけでなく道路の復旧が進まないなか、長時間の移動も必要になるため、記者は水、食料、燃料のほかに携帯トイレも用意して取材に向かった。取材先で使うことのできるトイレの位置情報を記者の間で共有するなどして対応したとの声もあった。

発災当初は携帯電話も使用できなくなかった。このため、通信各社の回線が復旧するまでは、衛星を用いたブロードバンドサービスの「スターリンク」が役に立ったという。

移動に際しては地震による道路の傷みが激しいため、自動車のタイヤがパンクすることも多く、スペアタイヤの準備も必須に。また、燃料を運搬するための携行缶が不足し、県外まで出向き新たに購入したとの話も聞いた。燃料の確保では、石川テレビは自社の駐車場で自動車に給油できるようにした(写真㊦)。これは、災害時を想定した石油の備蓄と配送を行う日本BCP社と契約していたことで可能となった取り組みだ。

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BCP給油人抜き(掲載用).jpeg

<石川テレビは自社の駐車場内で自動車に給油(写真は全て石川テレビ提供)>

また、FNN、FNSではキャンピングカーを取材に導入し、被災地での宿泊に対応した。このほか、テレビ金沢はロジ関係を総務局が担うことで、報道セクションは報道に専念できたという。

中継局は停電などにより一時停波も

ラジオは、MROラジオの輪島AM中継局と輪島FM中継局が非常用バッテリーの枯渇のため、いずれも1月3日から停波した。輪島AM中継局は、同6日に仮復旧。輪島FM中継局は同14日に仮設送信所を設置し、輪島市市街部を中心に向け放送波を送出。いずれも同21日に停電が解消したことにより本復旧した。エフエム石川がNHKと共同利用している羽咋中継局はアンテナが折れ、発災直後に停波。翌2日には仮設アンテナを設置し復旧した。

テレビは、東門前中継局、舳倉(へぐら)中継局、輪島町野中継局の3局が非常用バッテリーの枯渇により1月2日に停波した。いずれも民放4社の共建。東門前中継局は1月4日にポータブル発電機により復旧(MROは送信機が損傷を受けていたため同5日に復旧)の後、同30日に停電が解消し本復旧した。舳倉中継局は同21日に、輪島町野中継局は同24日にいずれも停電が解消し本復旧した。

これ以外の中継局では、停電中はバッテリーや発電機への切り替えにより対応し、停波は起きなかった。なお、輪島中継局は道路の寸断などで局舎に近づけないため、発電機の燃料補給のために自衛隊のヘリによる運搬が行われた。

前述のアンテナや送信機のほか、一部の中継局の局舎には損傷が認められることから、今後の復旧・補修が課題となる。

配信でも情報を届ける

各社は放送だけでなく、配信でも情報発信を行っている。石川テレビは支援や救助に役立てるために1月5日からYouTubeで空撮映像を計5本配信。同局がまとめた災害関連情報も自社のウェブサイトで公開している。平日夕方の自社制作番組を同時配信しているのは2局。テレビ金沢は『となりのテレ金ちゃん』を1月9日から、北陸朝日放送は『ふむふむ』を2月5日からYouTubeでの同時配信を実施している。MROも地震の関連情報をYouTubeで常時発信している。

地元局からの発信

これから地元局として発信していくことについて話を聞いた。

「発災から1カ月たったが、被災者にとってはカレンダー上の2月1日に過ぎない。時間とともに災害のことは忘れられることになっても、被災者のことばを全国に放送していくのがローカル局の務め」(北陸放送・大家陽一取締役報道制作局長)。
「この災害で大切な人を亡くした人にとって復旧や復興はない。そういう人たちにどれだけ手を差し伸べることができるか、これから長い取り組みになる」(石川テレビ・米澤利彦常務取締役放送本部長)。
「これから長く続く避難生活や復興に向けた動きを支援する。交通復旧や各種届の情報、復興のための制度案内は重点的に伝える」(エフエム石川・安地昭博放送営業部放送担当部長)
「命や生活を守る、被災者に寄り添う姿勢はこれからも変わらない。夢や希望を語るだけではない被災地の現実も伝え、今後も起こり得る災害への備えの改善のきっかけになれれば」(テレビ金沢・辻雅由報道制作局長)。
「いまは家屋の倒壊の被害が大きい珠洲市などの状況を伝えたい。今後は長期間の取り組みになるが、復興するまでを全国に伝えたい」(前勝巳・北陸朝日放送報道情報センター長)。
と、被災地からの報道への意気込みを語ってくれた。

石川県の民放5社とも、この地震で社員とその家族にけが人はなかった。本社の社屋にも損傷は見られなかった。

各局とも地震への備えを行っており、災害時の役割分担を決めていたことや定期的な訓練の結果、対応はスムーズだったとの声があった。さらに準備を徹底していれば、との声もあったが、事前の備えには各社とも一定の成果を感じているようだった。

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