米FCCの2委員が同時に辞任 定員割れの2人体制に 通信政策の停滞と災害対応に懸念

編集広報部
米FCCの2委員が同時に辞任 定員割れの2人体制に 通信政策の停滞と災害対応に懸念

【編集広報部6月19日追記】
本記事は6月10日現在の情報に基づいて6月18日午前に公開しました。記事公開直後の6月17日(米現地時間)に、連邦議会上院の投票でトラスティ氏がFCC委員に承認されました。投票結果は53対45。これで重要な議決の条件となる過半数の3人を満たすことになりました。トラスティ氏は7月1日から5年間の任期を務めます。本記はそのままとし、この注記で情報をアップデートします。


米連邦通信委員会(FCC)が定員5人から大きく割り込む事態となった。第2次トランプ政権発足に伴い前委員長のジェシカ・ローゼンウォーセル氏が退任して以降、4人で運営してきた(既報 )が、6月6日付でネイザン・シミントン委員(共和党)とジェフリー・スタークス委員(民主党)の2人が同時に退任。ブレンダン・カー委員長(共和党)とアナ・ゴメス委員(民主党)の2人だけとなった(冒頭画像は6月5日までの委員㊧と同6日以降の委員㊨=FCCのサイトから)。スタークス委員はかねて辞意を示していたが、シミントン委員は直前まで活発に発言していた。両氏はいずれも委員を退く明確な理由を発表していない。

今回退任したシミントン委員は2020年トランプ大統領(当時)の指名。AMラジオの公共安全機能や通信インフラ整備の重要性を訴え、FCC内外の超党派協調にも前向きな姿勢をみせていた。一方、スタークス委員は2018年に同じくトランプ氏から指名され、ラジオ局のジオターゲティング* 推進や多様性の確保、AMラジオの自動車搭載維持など、特にラジオの分野で制度改善に注力していた。

FCCは通信・放送、ブロードバンド、周波数割当てをはじめメディア企業の合併などで規制と政策立案を担う独立機関。「委員3人以上」の定足数を満たさなければ重要な議決を行うことができない。現時点ではカー委員長とゴメス委員による2人で業務を続けているが(参考)、定足数に達していないため委員会としての正式な規則改定や行政措置の決定はできない。

トランプ大統領は就任後、ローゼンウォーセル氏の退任に伴う空席にオリビア・トラスティ氏(共和党)を指名しているが、連邦議会上院での承認審議は6月10日現在、まだ行われていない。仮に承認されても委員は3人にとどまり、本来の5人に回復するにはさらに2人の追加指名が必要だ。6月26日に予定されるFCCの次回定例会合までにトラスティ氏の緊急承認や追加指名などがあるのかが注目される。

ただ、現行の2人体制でも一部の業務は可能だという。FCC規則によるとカー委員長とゴメス委員が合意すれば告示や審議の初期段階は進めることができる。また、FCC内部の各局に権限を委任することで業務継続を図るケースもある。実際、電気通信大手ベライゾンによる同業フロンティアの20億㌦規模の買収計画は今年5月16日にFCCの有線通信競争局(Wireline Competition Bureau)が承認している。これに対してゴメス委員は「委員会投票を経ない密室での決定だ」と異議を唱えており、定足数割れが続けば今後も同様のケースが増える懸念もある。

2人体制ではできないことも多い。カー委員長が発表した規制撤廃方針「Delete, Delete, Delete」イニシアティブ(既報)のような包括的な政策変更は正式な委員会投票を要するため難しい。また、仮にトラスティ氏の承認が夏以降にずれ込み、米国が秋のハリケーン・シーズンに突入すると、災害時の迅速な通信機能回復というFCCの重要な業務に支障を来たす。

FCCは放送と通信分野の自由・公平性・安全性を保障する中核機関だけに、その判断は業界全体に影響を与える。2人体制が長期化すれば政策の停滞や規制の不透明性が生じるのは必須で、迅速な人事承認と委員補充が求められる。


* GPSやIPアドレスなどから取得した位置情報を基に、ターゲットとなるユーザーへ広告を発信するマーケティング手法。

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