1月20日に発足した米トランプ新政権による、かねて予想されていた既存メディアへの威嚇的な動きが具体的に始まった。まず標的となったのが、公共放送PBS(Public Broadcasting Service)とNPR(National Public Radio)だ。どちらも非営利の団体で、財源は連邦政府や州政府・自治体の交付金、個人や財団の寄付金、企業の協賛金など。新政権は両者への交付金の廃止をもくろんでおり、その前段として1月末、連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長(共和党、トランプ大統領が2024年11月に新たな委員長として指名していた)がPBSとNPRへの調査を開始すると米メディア各紙が報じた。PBSが連邦政府から受け取る交付金はPBSの年間予算の約15%にあたるという。これが一気に廃止されると大きな打撃となり、公共放送局側も反撃に出ている。
焦点となっているのは、公共放送局が番組中に放送する"スポンサーシップ"(支援・後援)の合法性だ。公共放送は民放のように各スポンサーが自社の商品やサービスを宣伝するCMは放送できない。ただし、FCCが定めた規則の範囲内でスポンサーを募り、企業・団体としての告知や企業情報を数十年にわたって流してきた。PBSのスポンサーシップ募集サイト(外部サイトに遷移します)にスポンサーとして名前を連ねるのは現在、国際的な会計事務所BDOや金融サービスのレイモンド・ジェイムズ、クルーズ船のキュナード・ライン、アメリカンクルーズラインなど。ニューヨーク・タイムズ(NYT)によると、FCCは近年、公共放送が可能な"スポンサーシップ"(支援・後援)規則を徐々に緩和。将来的に、政府交付金に頼らなくても自立できるようにしていくためだという。しかし、カー委員長は「これらは"支援・後援"と称したアドバタイジング(広告)で、違法性がある」と主張している。
カー委員長主導のこの調査にFCCのアナ・ゴメス(前委員長)、ジェフリー・スタークス両委員(いずれも民主党)は「FCCの権力を武器化しようとするもの」と猛反対している。しかし3月には、米政府効率化省(DOGE)の小委員会が公聴会でPBSとNPRに証言を求めている。DOGEは実業家イーロン・マスク氏が率いるトランプ政権下の臨時の政府への助言組織だ。
PBS、NPRはともに調査に協力するとしながらも、真っ向から対抗していく姿勢も見せている。PBSは「非営利・政治的中立に基づくPBSの放送理念は、これまでも米国議会で超党派の支持を得ている。公聴会でPBSの価値を説明する」と発信。NPRも「われわれの活動はFCC規則に準拠しており、調査でそれが確認されると確信している」との声明を発表した(冒頭画像=NPR公式サイトより)。
またPBSは市場調査会社YouGovと提携して回答者の支持政党が反映されたアンケートを実施した。回答者数2,000人のうち792人がトランプ支持者。しかもトランプ支持者の65%はPBSへの政府交付金は妥当、または少ないと答え、PBSを支持しているという。全回答者の82%(トランプ支持者の72%)がPBSの子ども向け番組と教育コンテンツを有益だと答えた。
NYT紙はNPRの元幹部でオーディオコンサルティング会社Magnificent Noiseの共同創設者エリック・ヌーズム氏の意見を紹介している。「公共放送局におけるスポンサーシップはFCC規則の下で放送できる内容が制限されており、民放局のアドバタイジング(広告)とは全く異質なもの」と、FCCが両者を比較すること自体が間違いと指摘し、公共放送局の立場を支持している。