「onlineレビュー」は編集担当が気になった新刊書籍や映画、ライブ、ステージなどをいち早く読者のみなさんに共有すべく、評者の選定にもこだわったシリーズ企画です。今回は、2023年11月に89歳で亡くなった脚本家・作家の山田太一さんの三回忌にあわせて、2月11日まで放送ライブラリーで開催中の「山田太一上映展示会」をライターの濵田研吾さんにリポートしていただきました。(編集広報部)
山田太一作品で辿るテレビドラマ史
2025年12月13日、放送ライブラリーで開催中の特別企画「山田太一上映展示会~名もなき魂たちを見つめて~」に出かけた。展示会場に併設された映像ホールでは、『沿線地図』(TBSテレビ、1979年)の第1話が上映されていた。市井の電器店夫婦(河原崎長一郎、岸惠子)の会話が、会場内に聞こえてくる。夜、近所のお年寄りから、テレビ修理の電話依頼がくる。「断われ」と言う夫と、「すぐ伺います」と応える妻。「アンテナのコードぐらい、自分でつけたらいいじゃないか」「おばあちゃんがつけられるわけないでしょ」。夫婦げんかにもならない、平々凡々たるやりとり。"山田太一の世界"にひたるには、またとない"演出"ではないか。
展示室の最初のコーナー「生い立ち(原点)」に、山田氏が中学生のときに書いた作文が展示(初公開)されていた。題は「枯野よりも 旅にある芭蕉の或る観察」。寂しげに映る松尾芭蕉の面影が、『冬構え』(NHK、1985年)で描いた老いた旅人(笠智衆)と重なって見える。若くしてすでに、人の孤独に対する目線を投げかけていたのか。
会場の壁には、山田氏が1960年代から2010年代にかけて手がけた全テレビドラマの年表と解説が掲げられている。現時点で決定版と言うべき労作で、年表の前を行ったり来たりしながら凝視してしまった。初期の脚本作のなかには、映像(VTR)が残らず、見ることのかなわないドラマもある。どんな作品だったのか、年表を見ながら想像してしまう。展示ケースには、企画書、台本、スチール(番組写真)がところ狭しと並び、山田作品の全貌を知ることができる。
<山田太一氏の業績が一望できる年表、作品解説、スチール写真と台本類>
展示スチールのなかに、『男たちの旅路』第3部第1話「シルバー・シート」(NHK、1977年)があった。吉岡司令補こと鶴田浩二の右隣に、佐々木孝丸演じる老人ホームの院長が写っている。初めて見る珍しいスチールで、本作のファンである筆者は大感激だった。
人となりを伝えるゆかりの品々
今回の特別展は、山田氏の三回忌にあわせて、公益財団法人放送番組センターが主催、「山田太一のバトンを繋ぐ会」(以下、繋ぐ会)が共催した。同センター企画事業部長の峰野千秋氏は「山田先生の業績をふりかえるためにも、すべての業績をきちんと見せる。そして、貴重な品々をとおして人となりを伝える。まずそこに、こだわりました」と話す。
繋ぐ会が協力したことで、青年時代の資料、卒業論文、読書ノート、愛蔵のレコード、生前の愛用品といった所縁ある品々の展示が実現した。『ありふれた奇跡』(フジテレビ、2009年)の直筆原稿はそのひとつ。原稿用紙に2Bの鉛筆で力強く、勢いある筆跡で書かれている。インタビュー写真でよく見る温和な表情とは対照的に、厳しいまなざし、物言わぬ後ろ姿が浮かぶ。
書斎と書庫を紹介したコーナーに飾られた、1983年5月の卓上カレンダーが面白い。メモがわりに予定がびっしり書きこまれ、「津川さんパーティ」「阿木さんパーティ」といった直筆の文字が読める。俳優の津川雅彦、作詞家の阿木燿子のことだろうか。社交的だった人柄が、見え隠れする。
<愛用の品々や直筆の原稿、書簡が並ぶ>
家族、知人、仕事仲間と交わした書簡からは、豊かな人間模様がにじむ。父の山田逸三が息子に宛てた激励文、山田氏が脚本の口述筆記を担当した師・木下惠介からの指示書、早稲田大学在学中に寺山修司と交わした往復書簡、向田邦子に宛てた随筆集『父の詫び状』の感想文、八千草薫、大原麗子からの礼状。『冬構え』に出演した沢村貞子は、もう一度山田作品に出演したかったものの、身体のことを考えあきらめたことを、一枚の便箋に綴っていた。
描かれた人と時代を未来にどう手渡すか
映像ホールでは、山田氏が手がけた代表的なドラマのうち22作品が連日上映されている。『岸辺のアルバム』(TBSテレビ、1977年)をはじめとする連続ドラマから、『時は立ちどまらない』(テレビ朝日、2014年)などのスペシャルドラマまで、多彩なラインアップである。ネット配信や映像ソフトで視聴できる作品もあるものの、一度にこれだけ上映される機会はまずない。
放送ライブラリーでは他に、およそ80本の山田太一脚本ドラマの映像を保存、公開している。同ライブラリー館長の古賀靖典氏は「放送局の枠組みを超え、これだけの数を公開できるのは当館の強みです。作品に馴染みのない若い方にも、新鮮な出会い、発見をしてもらえたらうれしい」と語る。
パネル展示「山田太一から受け取ったもの」では、宮藤官九郎、岡田惠和、スチャダラパーら各氏が、山田作品との出会いや想いを寄せた。「それぞれの胸のなかに、山田先生への愛着と影響を受けてきた蓄積があるんでしょうね。先生が描かれた人と時代を、未来に手渡すためのヒントになるメッセージだと思います」(峰野氏)。
山田氏は、こんな言葉を遺している。「前の世代と次の世代の自分は"つなぎ目"なんだ」(舞台『流星に捧げる』パンフレット、木村光一との対談より)。今回の特別展はまさに、その試みの場となった。「ドラマに限らず、放送は文化です。そのためには放送の作り手、担い手を育てていくことが大事です。そこに山田先生の遺志、願いがあるように感じています」(古賀氏)。
つい足がとまってしまい、展示の先へとなかなか進めない。ずいぶん時間をかけて味わったが、後ろ髪をひかれる思いで会場を後にした。そんな気持ちもあって、2025年最後の開館日となる12月28日にふたたび訪れた。
当日は、深夜ラジオを題材にした『真夜中のあいさつ』(TBSテレビ、1974年)と、テレビディレクター(加山雄三、香山美子)や端役女優(浅田美代子)の悲哀を描く『なつかしき海の歌』(TBSテレビ、1975年)が上映された。配信やDVD化されていないレアな単発ドラマで(筆者も未見)、満員の客席には「初めて見た!」というような高揚感があった。開幕以来、連日の盛況で、特に上映ホールは常に満席が続いているという。展示・上映は2月11日まで。あと何回か、足を運ぶことになるだろう。

<連日満席の上映会>
(一部敬称略)
▶特別企画「山田太一・上映展示会~名もなき魂たちを見つめて~」
2026年2月11日(水・祝)まで。月曜日は休館(祝日の場合は翌平日休)時間は10時~17時。会場は横浜情報文化センター8階の放送ライブラリー イベントホールと映像ホール。入場無料。上映番組のプログラムなどは同ライブラリーのウェブサイトから(外部サイトに遷移します)。
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