波乱に次ぐ波乱の展開となってきた今年の米大統領選挙(投票日は11月5日)。米国民はテレビにかじりつく日々が続いている。7月13日のドナルド・トランプ氏銃撃から同21日のジョー・バイデン現大統領の撤退発表、そしてカマラ・ハリス副大統領が民主党の後継大統領候補指名を確実にした同23日までの主な出来事とテレビの視聴状況を振り返ってみたい(以下、日時はいずれも米東部時間/視聴者数データはニールセン調べ)。
▶バイデン大統領の撤退表明
バイデン大統領がXの公式アカウントで大統領選からの撤退を表明したのが7月21日(日)13時46分。前日まで続投の意思を示していただけに、メディアと国民は虚を突かれた。この投稿から各局は速報を流し始めたものの、日曜午後ということもあって平日プライムタイム担当の主要キャスターらは不在。各局とも主力陣を呼び集めて夜の特集番組へと雪崩を打った。速報時にノーメークで画面に登場した人気女性キャスターもいれば、休暇先から電話で報道に参加するキャスターもいた。
アドウィーク誌ほか米メディアによると、撤退発表4分後の13時50分に速報を打ったケーブル局のFOXニュースが一番乗りだったという。ほぼ同時にMSNBC、遅れてCNNという順番だった。地上波のABC、CBS、NBCも14時過ぎに通常番組を中断して速報を始めた。14〜16時の視聴者数はABC、CBS、NBC、CNN、Foxニュース、MSNBCの6局合計で平均約1,200万人。トップはFOXニュース(320万人)で、以下NBC(270万人)、CNN(184万人)、MSNBC(180万人)、ABC(131万人)、CBS(112万人)だった。
▶トランプ氏銃撃と共和党全国大会
バイデン大統領の撤退発表から1週間前の7月13日(土)18時過ぎに起きたのがトランプ氏への銃撃だ。激戦州のペンシルベニア州バトラーで開かれていた選挙集会の演説中だった。1人が死亡、トランプ氏を含む3人が負傷した。ケーブル局のFOXニュースとCNNは集会の様子を生中継しており、そのまま速報に切り替えた。別番組を放送していたMSNBCはテロップを流すともに、すぐに速報に切り替えている。18〜19時の速報視聴者数はFOXニュースが368万人、CNNが106万人、MSNBCが70万人となっている。
この日のプライムタイムには特集番組が組まれ、視聴者数は地上波ABC、CBSと3大ケーブルニュース(CNN、FOX、MSNBC)の5局合計で1,607万人。ピークは20時で、5局の合計はほぼ1,900万人に達した(データがとれていない地上波NBCとFOXを加えれば、さらに増えると見込まれる)。内訳はトップがFOXニュースの平均649万人、ABCの308万人、CBSの269万人、CNNの245万人、MSNBCの136万人。この事件を受け、翌7月14日(日)にバイデン大統領が国民に向けて行った演説の視聴者数はABC、CBS、NBC、FOXと3大ケーブル局の7局合計で1,878万人だった。
週が明けて7月15日(月)から4日間、ウィスコンシン州ミルウォーキーで共和党の全国大会が開かれた。トランプ氏は銃弾で負傷した右耳に白いガーゼを巻いての登場。地上波、ケーブル合わせて14局が生中継し、初日の合計視聴者数は1,813万人。2020年の同大会初日の1,700万人から約100万人増えたが、2016年比だと21%の減。トランプ氏による指名受諾演説があった最終日は2,538万人で同じく6%増えた。4日間の平均は1,907万人で2020年の1,939万人をわずかに下回った。ちなみにトランプ氏の受諾演説は96分も続き、歴代候補の受諾演説で最長となった。
ここでも視聴者数のトップはFOXニュース。地上波ではNBC、ABCが健闘した。なお、視聴者のほとんどは55歳以上で、初日は全体の75%を占めた。ただし、これは党大会中継に限ったことではなく、米国では昨今、テレビの報道番組を見る年齢層はほとんどが55歳以上という状況を反映している。
▶撤退発表前のバイデン大統領とテレビ報道
6月27日のテレビ討論会で精彩を欠いたことから、バイデン大統領に撤退を迫る声が民主党を中心に高まった。バイデン陣営はダメージコントロールを目論んでABCの独占インタビューに応じ、討論会1週間後の7月5日(金)夜、ABCは録画で放送した。視聴者数は850万人と1局の独占放送にしては破格の視聴者数を集めた。一方、テレビ討論会を視聴した5,130万人のうち、850万人にしか見てもらえなかったという見方もある。しかも、このインタビューで起死回生したとはいえず、撤退を迫る声が一層高まってしまった。
続いてバイデン陣営が巻き返しをねらったのがNATO首脳会議(7月9~11日、ワシントン)だ。最終日、会議終了直後の19時半からバイデン大統領による記者会見が8局で生中継された。テレプロンプターなしのアドリブで、記者の質問に生で答えられることを証明するために開かれたと言ってもよかった。そのため国民の注目度はかなり高く、視聴者数は各局合計で2,420万人に達した。地上波・ケーブル合わせての視聴者数トップはケーブル局のFOXニュースで平均567万人。以下、ABCの498万人、CBSの360万人、NBCの355万人、MSNBCの252万人、CNNの222万人だった。
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トランプ氏銃撃事件後、各メディアの報道はトランプにやや偏重していた。そのタイミングでダメ押しの共和党全国大会。選挙そのものの勢いが大きく共和党に傾きかけていたが、バイデン大統領の撤退発表から一気に民主党の反撃が始まった。カマラ・ハリス副大統領が大統領候補者としての党内指名を確実にし、副大統領選びが俄然注目されている(7月23日現在)。 8月19~22日にはシカゴで民主党全国大会が開かれ、11月の選挙まで報道もさらに熱を帯びてくる。さしあたってはABCの主催で9月10日に予定される2回目のテレビ討論会の開催可否が注目される。バイデン大統領の撤退発表後、トランプ氏は「出ない。ABCからFOXニュースにホストを変えろ」と言い出しているとも伝えられ、こちらも仕切り直しとなりそうだ。
大統領選挙はある意味、米国最大のエンターテインメント。今年は輪をかけて派手な戦いになることは必須で、映像メディアの真骨頂ともいえる各局の報道ぶりにも注目が集まりそうだ。