収益構造の悪化で米国のローカルテレビ局を所有する大手グループの買収による合併・統合の動きが加速している。現在、Sinclair Broadcast Group(シンクレア)のE.W. Scripps(スクリプス)買収、Nexstar Media Group(ネクスター)のTegna(テグナ)買収の二つの大型案件が並行して進んでいるが、連邦通信委員会(FCC)の所有規制や政権の姿勢が大きな障壁となっている。
まず、シンクレアは11月にスクリプスの株式を約10%まで買い増した。さらにその直後の11月24日には残る株式すべてを1株7㌦、総額約5億3,800万㌦(約830億円)で買い取ることを提案したが、スクリプスは12月16日に「当社と株主の最善の利益になるものではない」と拒否した。
これまで数カ月にわたり協議を続けてきた両社だが、創業家が議決権の大半を握るスクリプス側の意向が合意を困難にしており、完全買収が提示された直後にスクリプスは「ポイズンピル」と呼ばれる敵対的な買収の防御策を発動するなど、売却を選択肢に入れながらもシンクレアへの警戒を崩していなかった。今回の拒否発表を受け、シンクレアは「統合の戦略的・財務的合理性は明白」としてスクリプスの経営陣に直接の話し合いを提案していると伝えられている。
一方の全米で179のローカル局を所有する最大手のネクスターによるテグナ買収案。FCCはテグナが保有するフルパワー* 64局などの免許をネクスターに譲渡する申請を受理し、12月1日、審査に向けた意見募集を開始した。意見書の提出期限や反論などを12月末から1月26日にかけて受け付ける。ネクスターは約62億㌦(約9,600億円)で買収する方針で、実現すると全米260以上のテレビ局が統合され、全米市場到達度は54.5%に達する。上限39%を定めた「National Television Multiple Ownership Rule(全国テレビ複数所有規則)」を大きく超えるため、ネクスターはFCCに規制の免除を求めている。
第8巡回区控訴裁判所は2025年7月、単一企業が同一市場で上位4局を2局以上保有することを禁じる「上位4局所有禁止規定(Top-Four Prohibition)」を無効とした(既報)が、今回のネクスター+テグナ統合後は23の市場でフルパワー局を3局以上保有することになるため、ネクスターはこの規則についても免除するよう求めており、FCCの判断が注目される。
トランプ政権下でFCCのブレンダン・カー委員長は規制緩和に積極的だ。しかし、直近ではトランプ大統領が規制緩和に否定的な見解(既報)を示すなど、ローカル局再編にも不透明感が漂っている。
* 米国の「フルパワー」「フルサービス」とは日本における広域・県域局の親局に相当すると言われる。総数は全米で1,756局(UHF1,265局・VHF491局)。このうち1,373局が商業放送、383局が教育目的などの非商業放送(2022年時点)。参考記事はこちら。
