前編で報じたように、7月23日に米国の第8巡回区控訴裁判所が同一市場内で1つの放送局グループが上位4局のネットワーク系列局を2社以上所有することを禁じるFCC規則を「無効」と判決した。連邦通信委員会(FCC)はすでにブレンダン・カー委員長の下で放送局の所有規制見直しに舵を切り始めたが、これに呼応するかのように米ローカル放送局を所有するメディアグループ各社で今年6月以降、資産の売却や合併を急ぐ動きが顕著になっている。
まず動いたのがアレン・メディアグループ(AMG)だ。AMGは2025年6月、21市場で運営する傘下のローカル局28局を売却する意向を表明した。創業者バイロン・アレン氏は声明で資産価値の回収と同時に債務の圧縮を図る考えを示した。AMGは過去6年間で10億㌦(約1,478億円)以上を投じて放送局を買収し、4大ネットワークの系列局を多数所有する独立系メディア企業の一つとなっていたが、業界全体の広告収入の減少や局価値の下落が続くなかで、経営体制の見直しを迫られていた。
大手投資会社のアポロ・グローバル・マネジメントも傘下のCOXメディアグループが保有するテレビ・ラジオ局を総額40億㌦で売却する方向で検討を進めていると報じられている。最も新しいところでは、8月1日にグレイ・メディアがオハイオ州に拠点を置く小規模放送局グループ「ブロック・コミュニケーションズ」のテレビ局を8,000万㌦で買収すると発表した。これもFCCの規制緩和による買収・業界再編の波を見込んで放送局グループが先手を打っていることを示す一例だ。
FCCもこうした動きに実際の取引を通じて柔軟な判断を示しつつある。7月1日、FCCはシンクレア・ブロードキャストグループが保有していた5局を新興の放送局グループ「リンコン・ブロードキャスティング」に売却することを承認した。ミズーリ州カークスビルのKTVOや同州ハンニバルのKHQAなど、いずれも上位4局系列局を含む重要市場の免許が対象で、FCCはここでも「上位4局の複数所有ルール」の例外を認めた。「地域ニュースサービスの維持を確保するもので公共の利益に資する」との判断で、例外的な承認は2025年内で3件目となるという。
また、形式上は小規模ながら業界関係者の注目を集めているのが、7月初旬に発表されたE.W.スクリプスとグレイ・メディアによるローカル局の「スワップ取引」だ。両社は全米の5市場で相互が所有するテレビ局を交換することに合意しており、現金による対価の支払いを伴わない均等な資産交換方式。グレイ・メディアはミシガン州ランシング(FOX系WSYM)とルイジアナ州ラファイエット(ABC系KATC)の2局を取得。一方、スクリプスはコロラド州コロラドスプリングスのKKTV(CBS系)を含む5局(低出力局含む)を獲得する。
なかでもミシガン州ランシング市場でグレイ・メディアがNBC系列のWILXとFOX系列のWSYMを併有する点が今後のFCCの方針を占う試金石になるとみられている。FCCはこの取引の承認にあたって「上位4局の複数所有ルール」の一部免除(例外措置)を求められる見込みで、この秋に予定される決定が注目される。スクリプスのアダム・シムソン社長兼CEOは「現政権が規制緩和の方向に流れると確信した時点から双方に利益のある複雑な取引を模索してきた」と水面下で再編を準備していたことをほのめかしている。
バイデン政権下の2023年には、スタンダード・ゼネラルによるテグナの買収案件(54億㌦)が所有規制に抵触すると却下されていたが(既報)、現在は規制緩和への期待がいよいよ高まっている。ただし、政治的なリスクが消えたわけではない。FCCのカー委員長は企業のDEI(多様性・公平性・包括性)方針を理由に特定の合併案件を阻止する可能性にも言及しており、政権交代の影響が報道姿勢やメディア合併の審査に及ぶリスクも依然として残っている。