8月21日中央審査【参加/25社=25本】
審査委員長=大友啓史(映画監督)
審査員=岡室美奈子(早稲田大学文学学術院教授)、木俣冬(コラムニスト)、ブルボンヌ(エッセイスト、女装パフォーマー)
※下線はグランプリ候補番組
『アンメット ある脳外科医の日記』と『ライオンの隠れ家』が接戦となった。前者は記憶障害をもった脳外科医、後者は自閉症スペクトラム症の青年と、2作とも主な登場人物に障害がある。どちらも一歩踏み込み、それぞれの個性や問題解決を細やかに描く。人と人の誠実な関わりをじっくり撮ることがドラマの深みと厚みになった。最優秀、優秀に選ばれた作品にはどれも現代社会で扱うべき題材が熟慮され、物語をとおしてテーマをどう受け止めるべきか視聴者への問いかけがあった。
選外作では、ローカル局ならではの方言、料理、観光地という地域の強みを用いた作品スタイル以外の表現を模索する作品や、地域のコミュニティの問題に取り組んだ良作も見られた。課題は応募作の話数選定。10話ほどの連続ドラマの場合、導入部としての第1話、集大成の最終回のほか、昨今増加する中盤の第1章から第2章へのシフト回などが応募されるが、独立した一本の完成度としてはやや物足りなく感じるという意見も挙がった。
最優秀=関西テレビ放送/アンメット ある脳外科医の日記(=写真)
過去2年間の記憶を失ったうえ、今日の記憶を明日には失い、「私には今日しかない」という絶望を抱えた主人公ミヤビ(杉咲花)が、彼女を慈しむ人々とのやりとりをとおして「私の今日は明日につながる」という希望を見つけていく。そこには障害があるかないかではなく、この人が好きだから一緒に生きたい、一緒に仕事をしたいという思いが先立っているようだ。杉咲をはじめとして若葉竜也、千葉雄大、野呂佳代などの同僚たちの実直な芝居は、ひとりひとりのかけがえのない時間として、視聴者の記憶に鮮明に残る。ただひたむきに生きることの尊さが胸を打った。
優秀=TBSテレビ/ライオンの隠れ家
イレギュラーなことに対応しづらい自閉症スペクトラム症の美路人(坂東龍汰)と、彼のために凪のような日常を守ってきた兄・洸人(柳楽優弥)。突然の闖入者・ライオン(佐藤大空)によってこれまでと違った世界が広がっていく。ホームドラマとライオンの親にまつわるサスペンスの二重奏が綿密に構成されたオリジナルドラマ。予想外の方向に躍動する坂東や佐藤、忍耐しながら彼らを支え続ける苦労人の面をにじませる柳楽。彼らの発する熱量が求心力になった。
優秀=日本テレビ放送網/ホットスポット
『架空OL日記』(2017年、読売テレビ放送)、『ブラッシュアップライフ』(2023年、日本テレビ放送網)に続きバカリズムの脚本にますます磨きがかかる。なにげない会話が続く日常と、宇宙人が地球人と共生する非日常がしれっと並列するシュールな世界。宇宙人を演じる東京03の角田晃広の演技にはバカリズムの笑いの間合いのひとつの到達点を見たように感じた。脚本執筆と撮影が並行してときには視聴者の反応も加味してストーリーができあがることもある連ドラの脚本のなかで、第1話から終盤の小ネタを周到に仕込み完成度が高い。
優秀=テレビ朝日/テレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアム 終りに見た街
1982年に山田太一が書いたドラマは2005年にリメイクされ、今回はそれを原作とし宮藤官九郎が脚本を書いた。脚本家(大泉洋)とその一家が現代から戦時中にタイムスリップ。戦争の結果を知るからこそ悪戦苦闘する。現代と過去に出現する似た顔の人物(勝地涼)に宮藤なりの問題意識が見て取れる気がした。タイムスリップによって現代人が過去の価値観を実感する手法は最適解ながら、審査ではこのパターンが増えていることに懸念の声もあった。一方で、2025年(番組の放送は2024年9月)のいまのほうが1982年版よりもリアルに響くという声も。
優秀=WOWOW/連続ドラマW 災
ひたひたと何かが迫りくるような劇伴に乗せて地方都市で事件が連続する。各回、香川照之が演じる人物に出会った者が謎の死を遂げていく。香川が演じるのは毎回別人(演じ分けが見事)なのだが遺体には共通点が......。実は同一人物の仕業なのか、人生に悩みを抱える者たちの闇のメタファーなのかわからない。脚本、画づくり、演技......等々すべてにおいて上質で映画化されるのも納得。と同時にテレビドラマ的娯楽性にやや欠けるのではという意見もあった。
優秀=テレビ大阪/それでも俺は、妻としたい
自身と家族の自伝的物語であり、原作、脚本、演出がすべて足立紳。主人公の家も当人の家を使用という私ドラマ。なかなか応じてくれない妻にセックスをあの手この手でねだる夫。仕事でなかなか結果を出せない夫に苛立つ妻。息子は言動が個性的で目が離せない。しんどさを抱える日々の生活をとことんエンターテインメント化することには、誰もがやろうと思ってやれるものではない強固な覚悟を感じた。
優秀=沖縄テレビ放送/沖縄テレビ放送開局65周年特別番組「おきなわテレビはじまりものがたり」
開局記念に自身の局の歴史ドラマを作ることは意義深い。とりわけ沖縄の放送史となると他府県の住人としても興味深かった。貴重なアーカイブ映像も入り教育ドラマ的風情ながら、脚本は芸人でもあるガレッジセールのゴリ(照屋年之)で、笑いもふんだん。誰もが親しみやすい物語は知らない人が歴史を知る入り口になり得るだろう。米軍機宮森小学校墜落事故で米軍による撮影制限をされたときジャーナリストはどう向き合うか。そんな問題提起も感じた。