【審査講評】「リスナーあってこそ」から報道を問い直す(2025年民放連賞ラジオ報道番組)

藤代 裕之
【審査講評】「リスナーあってこそ」から報道を問い直す(2025年民放連賞ラジオ報道番組)

8月21日中央審査【参加/29社=29作品】
審査委員長=藤代裕之(ジャーナリスト、法政大学社会学部教授)
審査員=錦光山雅子(フリーランスライター)、熊田安伸(ジャーナリスト)、三谷文栄(日本大学法学部准教授)

※下線はグランプリ候補番組


ポッドキャストの普及、radikoのタイムフリーの拡大など、音声メディアを取り巻くメディア環境が激変している。双方向メディアのラジオはリスナーあってこそ。審査にあたり制作陣によるリスナーに伝える工夫を重視した。報道番組だけに取材の丁寧さはもちろん、メディア不信の広がる時代においては自身のあり方を問う姿勢も重要になる。厳しくなる経営環境において、ラジオ報道に取り組むハードルは高いが、ラジオらしさも、報道番組らしさも、二兎を追うことを期待したい。

最優秀=中国放送/消えゆく声・ヒロシマを継ぐこと(=写真)
「怖い」「しんどい」。広島のメディア関係者が戦争や原爆を扱うとき、これらの言葉を使うのはリスクが高いと感じた。だが、それが報道の硬直化なのだと理解した。リスナー起点で、制作者が避けてきた課題に正面から向き合った番組は、「ヒロシマを継ぐ」を問い直すチャレンジだと受け取った。一人語りにより、重いテーマでも最後まで聞き届けられる工夫があった。家族伝承者という制度の困難さを、葛藤や迷いとともに伝えたからこそ、一歩踏み出す勇気が出たという反応があったのだろう。この番組で誰が語るのかの意味は大きい。広島で生まれ、育ったからこその「怖い」「しんどい」であることの説明があると良かった。

優秀=山形放送/農なき国の食なき民~時給10円、消える農民~
「令和の百姓一揆」を主催した山形県の農家・菅野芳秀さんの目線から農業の問題点を描く。米価格の高騰に苦しんでいる私たち消費者が、つくる側に対して無責任であることを自覚させられる。「時給10円」という言葉は重いが、制度や構造の問題点に踏み込んで検証してほしかった。成田闘争で出会い結婚、減反に反対して孤立、農業に限らない団塊世代の時代の証言者としても、魅力的なパーソナリティが十分に伝わった。国の理不尽さと闘い続けている「怒り」はどこから生まれるのだろうか。

優秀=文化放送/文化放送報道スペシャル「全生園の柊」
ハンセン病当事者の高齢化が進む中で、その語りを音声メディアとして残すという取り組みに審査員の多くが共感した。証言を引き出すインタビュー手法、当事者の語りと弁護士の説明を巧みに配した構成、ラジオとしての聴きやすさ、療養所を囲う柊を隔離の象徴としたタイトル、これらが高い次元でバランスした番組だった。政府の政策により差別が生み出され、周囲の無理解と同調圧力により療養所に行くことを余儀なくされる状況は、SNSで繰り広げられるヘイトスピーチにも通じるものがあった。

優秀=エフエムラジオ新潟/FM HEADLINE Today's Pick Up ~拉致問題を考える~
2002年に北朝鮮が拉致を認めてから20年以上が経過し、関心が低下している。これに対し「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」に、朝の情報番組内コーナーで5回連続して報道することは、視聴習慣を考えた「伝わる」取り組みであり、地元メディアの役割を果たそうとする姿勢だと感じた。県外出身者もいる大学ダンス部の表現活動を通じてリスナーの関心を高めていく事例は、番組のサブテーマである「一人一人にできること」につながっていた。報道番組としては話を聞くにとどまらず、深い取材が欲しいとの意見があった。

優秀=福井放送/FBCラジオ報道特別番組 殺人犯の烙印は消せるのか~前川彰司さん38年の闘い~
無実を訴え再審を求める前川彰司さんの長年にわたる闘いを、時代を映す音楽を各シーンに挿入することで表現するだけでなく、検察側が供述の裏付けとして主張していたテレビの音楽番組と関連させるという「音」を工夫した構成だった。当時の状況を知る人物の証言をインタビューで引き出すなど、捜査当局の組織的な不正を描き出す取材が積み重ねられていることが分かる。ただ、「烙印は消せるのか」というタイトルであるならば、逮捕当時に烙印を押したであろう報道を振り返ることが不可欠だ。

優秀=ラジオ大阪/明日に寄り添う~訪問介護の現在と未来~
笑いに溢れたトークの中から現場のなぜに迫る、ラジオらしい、かつ大阪らしい番組はお見事だった。ただ面白いだけになりがちだが、訪問介護制度を利用しているミュージシャンと「重度訪問介護従業者」資格を取得しているお笑いタレントを配し、二人が素朴な疑問を専門家に問いかけることで、制度や法という難しい問題をリスナーが自分事として理解できる工夫があった。大阪のタクシーから聞こえそうな、「実は家族が介護でしてね」と運転手と会話してしまいそうな空気感、世界とつながる時代にローカリティこそが武器だ。

優秀=琉球放送/RBCiラジオスペシャル 我が子を亡くすということ ~コザ高空手部主将自死問題~
この夏もスポーツ強豪校における部活動の中で生じた問題が報じられた。パワハラを伴う指導はなぜなくならないのかという根源的な問いが番組を貫いていた。他の遺族たちと出会うことで少しずつ前に進んでいく遺族の様子は、むしろ悲しみが決して癒えることがないことを表していた。第三者委員会に対する教員の不誠実さの指摘だけでは終わらず、熊本市の仕組みを紹介し、解決には外部の目が必要であるという制度面への目配りがあった。テレビ番組を聞いているようだという意見があり、伝え方の工夫を求めたい。


全部門の「審査講評」および「最優秀受賞のことば」はこちらから。
審査結果はこちらから。

最新記事