【審査講評】新たな学びの意欲を刺激する(2025年民放連賞青少年向け番組)

藤田 真文
【審査講評】新たな学びの意欲を刺激する(2025年民放連賞青少年向け番組)

8月19日中央審査【参加/19社=19作品】
審査委員長=藤田真文(法政大学社会学部教授)
審査員=岡本美津子(東京藝術大学大学院映像研究科教授)、尾木直樹(教育評論家、法政大学名誉教授)、渡辺真理(フリーアナウンサー)


今年の審査では「青少年に見てもらいたい番組」について、審査員の間で以下のような観点を共有しながら、議論を進めました。①青少年のはつらつとした姿が描かれている番組、②新たな学びの意欲を刺激する番組、③多様性、社会的包摂、SDGsなど現代的な課題を扱っている番組。これらのいずれか、または複数の要素を盛り込んだ番組に高い評価がつきました。

最優秀=南海放送/タコガール!!〜わたしの中のもなか〜(=写真)
タコの生態に魅せられ水族館部がある愛媛県立長浜高校に入学した高校生・石丸夏実さんは、一匹のタコ"もなか"の飼育経験を通じてタコへの興味をどんどん深めていく。興味の先に、マダコが自己認知を持つのかどうかを検証する実験を行い、成果を専門学会で報告するまでに学びが進んでいく。さらに石丸さんはタコの研究を深めるために、その分野の権威の教授がいる大学を進学先として選ぶことになった。真の探究的学習とはこういうものなのかと感じさせる彼女の歩みである。好きなことが見つからない、勉強したいことがないと悩む中高生にぜひ観てもらいたい内容である。最後"もなか"はメスとの交接の後に突然死してしまう。石丸さんは高校生としての時間を共にしてきた"もなか"を、タコ飯にして命を味わう。命の教育という点からも、優れた番組であった。また水族館の見学会を地域に開放していることもあり、長浜高校の水族館部が地域の人びとに愛されかつ支えられている様子や、ときおりインサートされる瀬戸内の美しい海の映像など、その他にも見どころが多い。

優秀=テレビ朝日/題名のない音楽会 60周年記念企画 山田和樹が育む未来オーケストラの練習会
世界的な指揮者である山田和樹さんが、全国からオーディションで集まった18歳以下の子どもたちのオーケストラを指揮する。山田さんは全体練習で「君はどこから来たの」と話しかけ、地元に届くような音を出してほしいと求める。うまく演奏しようとするのではなく、「存在感を出してほしい」「キャンバスからはみ出せ」とも子どもたちに訴える。これらの山田さんの言葉は楽器演奏を超え、自己表現とはなにか、自分らしく生きるとはなにかという教えに結びつく普遍的な意味を感じさせるものであった。

優秀=信越放送/SBCスペシャル 本田先生のこころ診察室~発達障害のこどもたち~
本田秀夫医師は、大学病院の子どものこころ診療部で発達障害の子どもたちの診察を専門にしている。本田先生の診察は、「なにか困っていることはないですか」と子どもたちに声をかけることから始まる。発達障害の子どもを無理やり「ふつう」に近づけようとするなどして、環境と発達特性の不調和が存在したときに問題が生じる。だから本田先生の治療の目的は、発達障害の子どもたちが大人になった時に、落ち着いた一生を送れるように導くことだという。周囲に発達障害の同級生がいる青少年も、また教育者も学びを得られる番組だった。

優秀=長野放送/NBSフォーカス信州 太一の光~全盲ストライカーの見つめる世界~
ブラインドサッカーという自分の生きる道を見つけ、日本代表のエースストライカーにまでなった平林太一さんの10年間の成長を追った。取材対象者と密接な関係を築くことができる地域局の特性が活かされた番組である。平林さんは全盲でありながら、いろいろな人がいる環境に身を置きたいと普通高校を選んで入学する。点字ボランティアの活動を行うなど、自然に彼を支えようとする同級生たちの姿も素晴らしい。共生社会の実現のため、ブラインドサッカーをはじめさまざまな場で発信を行なっている平林さんの活動が実を結んでいることがわかる。

優秀=読売テレビ放送/グッと!地球便
ヒップホップダンサーの北尚果さんは、基本になっているアフリカのリズムを身につけたいと、日本人がいないカーボベルデ共和国に単身で移住した。好きな道を海外で切り拓いていこうとする冒険心と地元の人々に溶け込んで踊る姿は、近年内向きになっているとされる日本の青少年に勇気を与える。彼女のお母さんも、夫の死去のあと「死ぬまで全力でいきたい」と淡路島で宿泊施設を始めた。この母にしてこの娘ありと、二人ともポジティブなエネルギーが満ち溢れている。その二人を敬意と親愛を持って受け止める山口智充さんの司会も秀逸だ。


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