【最優秀受賞のことば】中国放送 消えゆく声・ヒロシマを継ぐこと(2025年民放連賞ラジオ報道番組)

宮﨑 夏音
【最優秀受賞のことば】中国放送 消えゆく声・ヒロシマを継ぐこと(2025年民放連賞ラジオ報道番組)

最初は、本当に......本当に嫌でした。

被爆80年。被爆者の平均年齢は86.13歳(2025年3月末時点)。あの恐ろしい経験を語れる人がいなくなる時代は、そう遠くありません。広島の放送局として、二度とこのようなことが起こらないように、伝えていく"使命"があります。

――ということは分かっていますが、原爆関連の番組を制作することが本当に嫌でした。その理由は......怖いからです。広島生まれ広島育ち、生粋の広島人ですが、原爆の恐ろしさを深く知ることへの恐怖心で、子どもの頃から向き合うことを避け続けてきました。

ただ、この業界にいる限り、いつかはという思いもありました。そんな時に言われた「その思いを軸に番組にしたら?」という上司の一言で、番組を制作することになりました。(なってしまいました......の方が正しいかもしれません。)

今回、取材にご協力いただいたのが、もともと中国放送(RCCラジオ)にご縁があった、細川洋さん。家族の被爆体験や思いを語り継ぐ「家族伝承者」の1期生として、17歳で被爆した父・浩史さんと、原爆で命を奪われた浩史さんの妹・瑤子さんの話を語り継いでいます。

洋さんは、私の「怖い」という思いを真摯に受け止めてくれました。おかげで、正直な思いをたくさんぶつけることができました。

洋さんの父・浩史さんには、亡くなられる前にお目にかかることはできましたが、直接取材をすることはかないませんでした。ただ、RCCラジオの記者が過去に取材した音声を大切に保管していたので、浩史さんの「伝承」に対する思いを、ご本人の「声」でお届けすることができました。番組により説得力が増したのではないかと感じています。

また、全体の進行はアナウンサーではなく、制作者である私自身が担当したのですが、本当は、私が放送に出ることにも、とても抵抗がありました。ただ、私自身の「声」で進めていくことでしか、この番組は意味を成さないと思い、覚悟を決めて取り組みました。私が本当に言いたいことは何なのか、言葉選びも難しく、何度も何度も修正を重ねながら収録していきました。

番組の中で、洋さんの講話を聴いた小学生が、「一生懸命生きます」という感想を言ってくれた......という話がありましたが、この小学生らしい言葉がとても印象的でした。浩史さんの想いを、洋さんの言葉を通して伝えたことで、子どもが「一生懸命生きよう」と思った。まさにこれも「伝承」されたひとつの形なのではないでしょうか。結局はとてもシンプルなことなのかもしれません。

今回、このような名誉ある賞をいただけて、大変うれしく感じております。私自身、今回の作品を制作したからといって、原爆への恐怖心を克服したわけではありません。いまだに向き合うことへの怖さがあります。ただ、番組放送後に、たくさんの方から「実は私も怖くて......」と言った声を聞きました。私のような目線だから伝えられたこともあるのではないかなと、今後の番組制作への励みになりました。番組を聴いた方が、どのような形であれ、何かひとつでも感想を持っていただけたら幸いです。

あらためて、取材させていただいた細川洋さんをはじめ、ご協力いただいたみなさまに感謝申しあげます。

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