全国唯一の水族館部がある、愛媛県大洲市の長浜高校。人口がどんどん減っていた小さな長浜の町ですが、高校生たちの"生き物愛"という大きなエネルギーに照らされ、その明かりのもとにたくさんの人が集まってくるようになりました。水族館部に憧れた生徒が全国各地から長浜高校に入学し、その部員たちが運営する「長高水族館」にもまた、県内外から多くのお客さんが訪れるようになったのです。長浜に吹き抜ける、高校生たちの爽やかな風を、取材に行くたび肌で感じます。
入学者数が激増し、分校化の危機を乗り越えた2022年。タコの研究がしたくて水族館部に入部した"タコガール"、石丸夏実さんと出会いました。小学生の頃からタコが大好き!タコの話になると目はキラキラ輝き、頬は高くまあるくなります。
石丸さんたちが3年生になる頃、校内にある水族館を、学校近くの保健センターに移転させる"水族館のお引っ越し"が始動しました。しかし、引っ越しに密着する中で、ある事件が発生します。彼女が愛するタコの"もなか"が、引っ越し直後に死んでしまったのです。いつも名前を呼んで、水槽越しに指と触手を伸ばし合っていた大好きな"もなか"が......。後日私が学校に行くと、「きょう、茹でてあるもなかを調理します」と石丸さん。まさか食べるとは思っていませんでした。放課後、カメラ片手に下宿先の寮へ。石丸さんは冷蔵庫から"もなか"を取り出し、手際よく切り刻んでいきます。「食べて命をつなぐことが、生き物に対する最大の敬意」という顧問・重松洋先生からの教えがあるそうです。"もなか"のタコ飯を食べた石丸さんは、思い出をかみしめながらも、おいしく食べられたことに安心していました。もなかが死んだときも、食べるときも、涙は流しませんでした。「私の中で生きてくれたらうれしい」という言葉には、ただ生き物をかわいがるだけではなく、命と向き合う覚悟がにじんでいたように感じます。
進学先は、憧れのタコ研究者がいる琉球大学。"タコガール"を3年間取材させていただいた私は、「強烈に愛するものがある人生、面白い!」とうらやみつつ、石丸さんにとってのタコほど愛するものがなくても、例えば好きな曲が1曲あるだけでも人生が豊かになる気がしてきました。
南海放送では約10年前から長高水族館の取材を続けていて、私がバトンを受け取ったのは3年前です。普段の特集制作ではリポーター兼記者として取材することが多いため、ディレクターとしてカメラを回すときは、いつもの調子でしゃべりすぎることがないようかなり意識しました。ですがつい心配になって「私、いつもよりしゃべらないしリアクション薄いと思うんですけど、気にしないでください!」などと予防線を張ってからインタビューしたことも......。番組制作初心者の私を導いてくださった先輩方、本当にありがとうございました。
そして、毎度タコ愛全開で取材を受けてくださった石丸さん、いつもカメラを快く迎え入れてくださる長浜高校の皆さまをはじめ、関わってくださったすべての方々に厚くお礼申しあげます。この賞をきっかけに、"好きを貫く"石丸さんの姿や、長浜の町を照らす高校生たちの輝きが、さらにたくさんの人の心に届くことを願っています。