子どものころ、毎年秋に行われていた「諸国民謡めぐり」という公演を、母に連れられて見に行っていました。舞台ではいくつもの文化サークルが、日本各地の民謡を踊り、歌っていました。今から思えばとても素朴な公演でしたがあの光景と旋律はいまも鮮明に思い出されます。残念ながらこの公演はすでに終了してしまったそうですが、当時耳にした民謡は今どのように受け継がれているのだろう......そんな思いを抱くようになりました。
そんな折に出合ったのが、「民謡クルセイダーズ」が演奏する和歌山の民謡「串本節」です。南米のリズムにのせて歌われていて、とてもかっこよかったのです。さらに地元・滋賀発祥の祭り音楽「江州(ごうしゅう)音頭」を、女性デュオ「すずめのティアーズ」が二声のハーモニーで歌い上げているのを聴き、大きな感動を覚えました。民謡がこんな形で演奏されることを知ったとき、「民謡の未来はどうなるのか? そもそも民謡の始まりは?」と考え、番組を作りたいと思うようになったのです。
私が京都放送(KBS京都)で担当している番組『岸野雄一の地球が奏でる音めぐり』でも、これまで何度か民謡を取り上げてきました。その面白さを思い出し岸野雄一さんに相談すると、「民謡をひもとこうとすると最低6時間はかかりますよ」との回答。そこでテーマを一つに絞り、多くの人になじみのある「おてもやん」(熊本県の民謡)を題材に、「変遷」「現在」「未来」という流れで番組を制作することに決めました。残りの5時間は、また別の機会に形にできればと願っています。
岸野さんは、京都・一乗寺に伝わる「鉄扇踊り」の郷土芸能の保存・継承に学生と取り組み、東京では墨田区の「すみゆめ踊行列」をプロデュースされています。その熱い思いも今回の企画につながり、番組の実現へと至りました。唄い手・中西レモンさんの合いの手、そして民謡研究家・佐藤千春さんのキャラクター「みんようちゃん」があってこその番組です。心から感謝いたします。
民謡は、人々の暮らしから生まれた会話がリズムにのり、その土地の声や言葉として歌われてきたものです。日本各地に数万曲あるといわれますが、歌い継がれるものもあれば、消えていくものもあります。これらが途絶えることなく、末永く受け継がれてほしい......そんな願いを込めて制作しました。
この番組が次の世代に伝えるきっかけになれば幸いです。
盆踊りをはじめ、生活のいろいろな場面で、歌い、踊り、そしてそれをつなぐ手段としての「ラジオ」であり続けたいと思っています。
最後に、今回携わってくださった全ての方に感謝いたします。このたびはありがとうございました。