【審査講評】音楽と人を結びつけるラジオの技がいくつも見られた作品群(2025年民放連賞ラジオエンターテインメント番組)

嶋 浩一郎
【審査講評】音楽と人を結びつけるラジオの技がいくつも見られた作品群(2025年民放連賞ラジオエンターテインメント番組)

8月20日中央審査【参加/71社=71作品】
審査委員長=嶋浩一郎(博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクター)
審査員=金山勉(ノートルダム清心女子大学副学長)、城戸真亜子(洋画家)、美村里江(俳優)

※下線はグランプリ候補番組


地域に密着したラジオ局だから発見できる物語。音声だけを伝えるラジオだからこそ生まれる没頭感。フレキシブルに機動力を発揮できるラジオだからできる"今"のリアルを伝える生放送。審査員の多様な視点を通じ、テクノロジーによってメディア環境が大きく変わっていく中で、ラジオが発揮できる"力"を再確認できたのではないだろうか。なかでも生活者に音楽を紹介し、楽しんでもらうことはラジオの大きな役割の一つ。過去の楽曲に対し新たな視点を提示したり、個人史を語る背景の中で楽曲を紹介したり、音楽の仕事に携わる人を深堀りしたり、音楽と人を結びつけるラジオの技がいくつも見られた本年の作品群だった。データで音楽を聴く時代に、ラジオで聴く音楽の価値がより明確になったと思う。

最優秀=京都放送/岸野雄一の 〜民謡でヨイショ!〜 (=写真)
まさか、自分が民謡をテーマにした番組にここまで惹きつけられるとは思わなかった。どちらかといえばマイナーな音楽ジャンルの楽曲に、今までにない手法でスポットライトを当てることに成功した音楽教養番組と言っていいだろう。誰もが一度は聞いたことのある「おてもやん」はもともと熊本県で歌われていたローカルソングだった。この曲がレコードになり、その後さまざまなミュージシャンによってカバーされてきたドラマチックな歴史を当時の世相や流行とともにひもといていく。歌詞を現代語に超訳すると現代のガールズトークになるなどその見立てが新鮮だ。番組の要所要所で、「みんようちゃん」というキャラクターが民謡とはなにかをパンチラインの効いた言葉で分かりやすく解説してくれる。音楽を聞かせるラジオならではの技、そして底力を感じさせてくれた。

優秀=青森放送/RAB耳の新聞スペシャル 寄宿舎放送クラブ
青森県立盲学校の寄宿舎で同級生だった板橋かずゆきさんと宮川秀美さんのトークはまさに青春! 寄宿舎の同級生とラジオDJのマネごとをしたり、バンドを組んで近所からの苦情を気にしながら練習したり、女子生徒から文通の誘いがあったり、そこには晴眼者とかわらない青春の風景があったことがわかる。そして、彼らにとって音楽というものが、外の世界とつながるとても大切なチャネルだということも伝わってきた。それを想像すると、当時彼らが聞いていた『パートタイム・ラヴァー』や『大きな玉ねぎの下で』などの楽曲が愛おしく聞こえた。

優秀=ニッポン放送/ニッポン放送開局70周年記念ラジオドラマ『マミーロード』
制作本数が少なくなっているラジオドラマに新たな可能性を感じさせる番組だった。まず、登場人物がそれぞれ魅力的でキャラが立っている。森山良子さん、高橋克実さんら実力者はさすがの演技だ。老婆が殺人を犯したと出頭してきたことをきっかけに始まるシリアスな謎解きと、笑いが絶妙なバランスで進行し、さまざまな伏線を回収しつつエンディングに向かう構成も見事だった。お笑い芸人ゴリさんの脚本家としての新たな才能を発掘したことも評価したい。

優秀=山梨放送/富士オデッセイ 〜幻のロックフェスが見た夢〜
1969年から70年にかけてストーンズやジミヘンなどのロックスターたちを日本に招聘しロックフェスを開催する計画があった。このフェスは紆余曲折をへて開催に至らなかった。当時の若者にとってはとんでもないプロジェクトだったわけだが、そこに参加予定だった日本のロックバンドTOO MUCHのギタリストの堀内良二さんが、渦中にいた人間でしかわからないエピソードを交え、知られざる音楽史をひもとく。現在74歳の堀内さんの語り口は淡々としているのだが、それが逆に当時の若者たちの熱気や喪失感をリアルに伝えていた。また、番組が単なるノスタルジーに終始せず、堀内さんの語りから現代にも通じるロックスピリッツが感じられたのもよかった。

優秀=東海ラジオ放送/魔法が解けるまで 〜その日限りの鍵盤〜
コンサートホールには演奏者の意を受けてピアノを調律するコンサートチューナーと呼ばれる調律師がいる。そして、調律の成果はほんの短い時間で消えてしまう。演奏者と調律師の間には最高の演奏を提供するための「真剣勝負の対話」がある。豊富な経験を持つコンサートチューナー鈴木均さんへのインタビューは全く知らなかった音楽のプロの世界にリスナーを誘う。鈴木さんの語りは無骨だがプロとしての矜持が感じられ、何人ものピアニストと対峙してきた歴史に裏打ちされていた。調律作業の取材はラジオならではの臨場感があった。

優秀=南海放送/ラジオドラマ「十円易者・村上桂山 〜二百万人を占った男〜」
たった10円で200万人もの人間に人生を語りかけたロックな男が松山にいたということにまず驚いた。ドラマは村上桂山さんが禅僧から易者に転じていく心境を、彼の残した自由律俳句の印象的なフレーズを折り込みつつ表現していた。明治に生まれた山頭火の幽霊とのやり取りを挿入したのも効果的だった。桂山と山頭火の言葉は、聞く人に季節の風景を想像させ、映像的なラジオドラマに仕上がっていた。

優秀=ラジオ沖縄/それ行け!民謡酒場2024 〜仲秋の宴〜
生放送の力を発揮した番組だった。民謡酒場と民謡をめぐる人たちの、まさに"今"の声が聞こえる。そんな、番組だった。生演奏でジングルを演奏したり、生演奏でリクエストにこたえたり、民謡酒場に行ったことのないリポーターをラジオカーで民謡酒場取材に派遣したり。出演者も生放送ならではの番組進行を楽しんでいるのが感じられ、ラジオの自由さが伝わってきた。また、経営が難しくなる民謡酒場の現状や。外国人が沖縄民謡の魅力を再発見している兆しなど、沖縄民謡を取り巻く状況を伝えていることも評価したい。


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