【2025年民放連賞審査講評(グランプリ審査:ラジオ)】音で伝える涙や笑い、地域性

佐々木 崇之
【2025年民放連賞審査講評(グランプリ審査:ラジオ)】音で伝える涙や笑い、地域性

【10月9日審査】
審査委員長=林和男(ぴあ 相談役Co-founder、J-WAVE番組審議会委員長)
審査員=相原大輔(大正製薬 マーケティング本部メディア推進部、日本アドバタイザーズ協会理事・メディア委員会委員)
飯塚友子(産経新聞 文化部記者)
岩崎秀昭(博報堂 取締役専務執行役員、日本広告業協会メディア委員会委員)
大石英司(UPDATER代表取締役、TBSラジオ番組審議会委員)
佐々木崇之(時事通信 文化特信部記者)
宮本茂頼(朝日新聞 文化部部長代理)
柴崎友香(作家、エフエム東京放送番組審議会委員)
松永真理(アサヒグループホールディングス 社外取締役、文化放送番組審議会委員)
山口香(筑波大学教授、ニッポン放送番組審議会副委員長)


今年の日本民間放送連盟賞グランプリ(ラジオ)は全国8番組の中から選考され、文化放送『文化放送開局記念 昭和100年スペシャル「ドンとモーグリとライオンと~やなせたかし 名作前夜」』(=冒頭写真)が輝いた。1960年ごろのやなせ氏脚本のラジオドラマ台本を発掘し、やなせ氏を直接知らない入社3年目の社員が白紙の状態でやなせ作品と向き合い、当時の番組作りの雰囲気や空気感を追体験させる力作だった。

音声を通じ伝わるのは戦争を憎み、平和を愛し、自己犠牲の精神。ユーモアを交えながらも作品に通底する、やなせ氏の思いは戦争でつらい経験をしたからこそ生まれたものだろう。「本人の肉声で届け、心に残った」「アーカイブの持つ力をあらためて感じた」と高く評価された。

準グランプリには、中国放送『消えゆく声・ヒロシマを継ぐこと』(=写真㊦)が選ばれた。被爆者が高齢化する中、原爆の恐ろしさや悲惨さをいかに後世に語り継ぐかという課題に正面から向き合った。「地元局としての使命を果たした」「記録や映像以上に声が持つ力を感じた」などと評価された。

★ラジオ準グランプリ2025審査講評(原稿内掲載).jpg

他に、津軽弁・南部弁・下北弁にクローズアップし、方言の持つぬくもりを伝えたエフエム青森『ラジmoTT!』は笑いを誘い、スポーツ実況に挑戦するベテランアナウンサーを取り上げた東海ラジオ放送『オールドルーキー』は聴く人を勇気づけた。ピアノ調律師の中でも一流の「耳」と「技」が求められるコンサートチューナーに注目した同局『魔法が解けるまで ~その日限りの鍵盤~』は音を比較して聴かせ、ラジオならではの番組と評され、「おてもやん」がいかに聴き継がれてきたかを企画した京都放送『岸野雄一の ~民謡でヨイショ!~』は民謡の面白さを伝えたいという制作者の熱意を感じさせた。ラジオ大阪『明日に寄り添う~訪問介護の現在と未来~』は制度を持続するために何が必要か、介護を行うタレントらが明るいトークで伝え、九州朝日放送『MANDAN』は身近に感じながらも素通りしている疑問を、リスナーからの共感を得ながら軽快に語ったなどと評価された。

放送100年を迎えたラジオ。ジャンルが異なるため視点の違いで評価が分かれたが、いずれの番組も音声だけで笑いや涙、地域性までも感じさせる、聴き応えのある番組ばかりだった。

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