【審査講評】音声メディアの特性を活かした「ラジオならでは」の作品(2025年民放連賞CM部門)

八塩 圭子
【審査講評】音声メディアの特性を活かした「ラジオならでは」の作品(2025年民放連賞CM部門)

8月8日中央審査[参加/ラジオ第1種21社=42作品、第2種24社=44作品]
審査委員長=田中淳一(クリエイティブディレクター/コピーライター)
審査員=大島育宙(芸人/映画・ドラマ評YouTuber)、野田絵美(博報堂 メディア環境研究所上席研究員)、三浦崇宏(The Breakthrough Company GO 代表取締役)、八塩圭子(東洋学園大学教授、フリーアナウンサー)


民放連賞CM部門は2025年からラジオCMのみとなった。20秒以内に凝縮して広告メッセージを届ける第1種と、放送局の姿勢やストーリー展開を盛り込む作品が多い長尺の第2種の2種目がある。審査の過程では、「ラジオならでは」「これはテレビではできない」といったコメントが度々登場した。最優秀、優秀には、音声メディアの特性を活かした表現や、想像力をかき立てられるような演出が盛り込まれた作品が選ばれ、ラジオとラジオCMの存在意義を感じることができた。

ラジオCM第1種(20秒以内)

最優秀=静岡放送/笹田学園デザインテクノロジー専門学校/企業CM/「野球」 篇(=冒頭写真)
野球の設定はよくあるが、甲子園の砂でアンコールワットを作るという見事な「裏切り」は、人気芸人さんたちが集まって考えてもなかなか浮かばないだろう。もしかしたら高校球児がクリエイティブを目指す道も現実にあるのではないかと、そこまで妄想してしまう。そんなドラマ性と想像を超える面白さで、頭ひとつ抜けた評価となった。

優秀=エフエム東京/聖教新聞社/企業CM/どんぐり
聖教新聞社の企業CMはもはや伝統芸能と言っていいほどの域に達している。どんぐりを拾ったという行動から、下を向いていたのではと想像し、「何かあった?」と声をかける。自分ならそんなふうに気付けるだろうかと、心揺さぶられる作品に仕上がっている。

優秀=静岡放送/南食品/企業CM/「しりとり」 篇
しりとりというトラディショナルな枠組みが、安定感と落ち着きをもたらしている。20秒の世界を会話で表現するコピーライティング技術が活きている。

優秀=北日本放送/日本海ガス/ガス衣類乾燥機 乾太くん/乾太くん 雨の日 篇
洗濯が乾くのだから晴れの日に決まっているというバイアスをうまく利用した演出。映像ではできない、音声メディアだからこそのシナリオ展開によって、「いつでも、晴れの日の仕上がり」というキャッチコピーを際立たせている。

優秀=MBSラジオ/大阪ガス/ツナガルde警報器 スマぴこ/スマぴこ「フラレる」 篇
声の演技と軽いタッチで、スッと心に入ってくるCM。彼氏に「振られる」と雨に「降られる」の掛け合いに言葉の面白さがある。女性ナレーターの演技もうまくはまっている。

優秀=朝日放送ラジオ/カクヤス/企業CM/「飲み方の味方」 篇
オンリーを意味する「のみ」が、いつの間にかドリンクを意味する「飲み」に変わり、キャッチコピーの「お酒のみじゃない」に昇華させていく展開が、鮮やかな「一本勝ち」のよう。伝えたい情報をダジャレでうまくパッケージしている。

優秀=朝日放送ラジオ/中央軒/企業CM/「Chuoken を Aishiteru」 篇
「Champon or Saraudon?」という音節が多い日本語を英語で言っている点や、この2品を機内で出している絵、カートにどんぶりがたくさん載っている様子などを考えると相当に面白い。ギャグマンガとしてもコントとして聴いても魅力的だ。

ラジオCM第2種(21秒以上)

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最優秀=文化放送/自社媒体PRスポット/広告のホンネ 篇
いかにもありがちな広告のエクスキューズを並べ、自らもお世話になっている広告業界全体を皮肉ってしまうシナリオが潔く、洗練された台本だ。「オトナのホンネ」というキャッチコピーは、リミッターも忖度もない文化放送の局イメージにぴったり。このCM自体も「ホンネ」が表現されていて、総じて秀逸なブランディング戦略が光る。

優秀=秋田放送/自社媒体PRスポット/日本語翻訳講座秋田弁 篇 けがにだばけぐなるがらけね
秋田弁ネタは鉄板だが、ここまで突き詰めた台本と、早口でもしっかり読み切るアナウンサーの技量が素晴らしい。局アプリのダウンロードにつながる構造はシンプルながらよくできている展開のため、生き生きとした現場感がある。地元、秋田愛にあふれた作品だ。

優秀=ニッポン放送/公共キャンペーン・スポット/ラジオ・チャリティ・ミュージックソン「夜の海」 篇
上柳昌彦アナウンサーの読みに引き込まれ、信号の音を灯台と感じる世界に自然と思いが及ぶ。局が育ててきた人材を活かし、社をかけて行っている一大プロジェクトをしっかり広めていることが素晴らしい。

優秀=ニッポン放送/公共キャンペーン・スポット/特殊詐欺撲滅「二人組詐欺」 篇
実際の詐欺の音声を使っているため、迫真性があり、誰もが思わず聞き入ってしまう。情報を武器として持ちましょうという呼びかけや局としての存在価値も感じられ、一歩進んだメッセージ広告と言える。

優秀=エフエム東京/自社媒体PRスポット/そこにいること
ラジオを1人暗い部屋の中で聴いている姿が想像できる。津田健次郎さんの声と表現力が、孤独を癒やす効果のあるラジオの存在を、しんみりと感じさせる。

優秀=静岡エフエム放送/公共キャンペーン・スポット/防災、始めませんか?
カウントダウンで答えを迫られると、記憶を探ったりスマホで検索したりして答えたくなる心理がはたらく。重要なのに普段は忘れてしまっていることに気付かせてくれる点が評価された。

優秀=朝日放送ラジオ/中央軒/長崎皿うどん/「Give me ギミック」 篇
「皿うどん」という言葉を楽しく浴びるように聴く、「アテンション」重視の作り。大人数のスタッフが機材の周りをぐるぐる回っているような気配が伝わってきて、想像するだけで思わず笑ってしまう。中央軒らしいCMだ。


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