【最優秀受賞のことば】静岡放送 笹田学園デザインテクノロジー専門学校 企業CM/「野球」 篇(2025年民放連賞ラジオCM第1種)

小川 けいこ
【最優秀受賞のことば】静岡放送 笹田学園デザインテクノロジー専門学校 企業CM/「野球」  篇(2025年民放連賞ラジオCM第1種)

この度は、大変栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。受賞CMは、2024年に実施された「第18回 SBSラジオCMコンテスト」で、7,000通近くの応募の中から優秀賞に輝いたCMコピーを使用した作品です。コピーの制作者である大野すみれさんは、協賛企業の笹田学園がファッションやアート、建築デザインなどを学べる学校であることから、創作活動に興味のある方をターゲットに、それが伝わるよう意識してコピーを作成したとのことです。創作意欲を「普段とは全く違うこと」で表現するという意外性や、創作意欲が溢れすぎる人々を描いた点が非常に巧みに表現されていることが高く評価されました。

私がCM制作に取りかかったのは1年ほど前になりますが、この面白いコピーを、20秒という限られた時間でどのように表現すべきか、大変悩んだことを今でも鮮明に思い出します。高校野球の試合終了のサイレンが響き渡る甲子園球場。負けた球児たちがすすり泣きしながら砂をかき集め、その砂から世界遺産であるアンコールワットを作ってしまうという情景。言葉で説明しても20秒以上かかってしまうこの情景を、どのようにラジオCMとして表現すればよいのか。そこでお世話になったのがさまざまな効果音たちでした。

カキーンとホームランを打つ音、沸き立つスタンドの歓声、試合終了のサイレン、すすり泣きする球児の声、砂をかき集める音など、このあたりの効果音は簡単に思い浮かぶのですが、一番頭を抱えたのが、アンコールワットを建設するという音。ただ、砂を集めて建物を作るだけでは想像の域を超えない......そこで思いついたのが、「重機を使おう‼」という荒業(きっと創建当時は重機など存在しないかと思いますが、そこは令和の時代ということで......)。ものの3秒ほどの重機音が入るだけで、何かを建築する風景にパッと切り替わる!これがラジオの良さであり強みでもあります。

そして「無い音は生み出せばいい!」という先輩の教えを思い出し、いくつかの効果音は自分で録音して集めました。子どもたちが遊び終える時間を見計らって、録音機とヘッドホン、マイクを持ち、同僚と近くの公園へ。頭の中では、甲子園球場の砂をかき集める絵を想像しながら、軍手をはめて砂をかき集めたり、下敷きで集めてみたり、今度は素手でやってみたり、ゆっくり、すばやくなど、試行錯誤を繰り返しながら録音に励んだ夕暮れ時は思い出深いです。ある時は、高校球児が試合で負けた感情ですすり泣いてほしいと無理難題を突きつけて、同僚たちにスタジオに入ってもらい、悔し涙を流してもらったりもしました。

こうして20秒に仕上げた笹田学園のCMは、聴き手のみなさんの想像力が加わって、一つの作品として完成しました。野球の試合に負けた高校球児が悔し涙を流しながら砂を集め、さらに想像を超える建築物を創造できてしまうのは、音というメディアだからこそ生み出せる強みだとあらためて感じました。ラジオディレクターとして、コピーをさらに引き立たせるための一工夫を、今回の効果音たちに散りばめたつもりです。

静岡放送(以下SBSラジオ)のCMコンテストには今年も力作ぞろいのコピーが集まり、SBSラジオのディレクター陣が音を付けてラジオCMとして命を吹き込む季節がやってきました。どんなコピーと出会えるのか楽しみです。

最後に、ナレーションを担当してくださった、静岡放送の松下晴輝アナウンサー、ナレーターの杉原徹さん、そしてコピーライターの大野すみれさん、さらにさまざまな音を作るうえで協力してくれたSBSラジオの仲間たちに、あらためて感謝を申しあげます。本当にありがとうございました。


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