特集【"令和のコメ騒動"を報じる視点③】新潟テレビ21 コメどころ新潟で起きていることを多角的に伝えたい

奈良瀬 哲也
特集【"令和のコメ騒動"を報じる視点③】新潟テレビ21 コメどころ新潟で起きていることを多角的に伝えたい

2024年から続いているコメ価格の値上がりは2025年になっても収まらず、政府備蓄米の放出などの対策が打たれるなど、"令和のコメ騒動"と呼ばれるに至った。そこで、どのようにして現在の状況が生まれたのか、また、コメどころの放送局はどのように報じているのか――リポートとともに報じる視点を中心にこの騒動を考えたい(まとめページはこちらから)。
第3回は47都道府県でコメの生産量1位の新潟県から新潟テレビ21(UX)報道部の奈良瀬哲也さんに日々のニュースで何を伝えているのかリポートいただきました。(編集広報部)


日本人の主食「コメ」の生産量が全国トップの新潟県。開局以来、コメどころの放送局として毎年、コメ作りの現状と課題を取材してきました。近年は気候変動による猛暑がコメの品質低下を招き、新潟県内の農家は大きな打撃を受けました。収穫されたコメの形や色、水分量などを確認する品質検査で、2023年産の新潟県産コシヒカリの1等米比率は4.7%と過去最低を記録しました。記録的な猛暑が収穫量の減少にもつながり、コメの価格高騰を招くとすれば、高温耐性を持つ品種の開発は欠かせません。異常気象が常態化する中、新潟テレビ21(UX)では5年以上前から、新潟県が取り組む「暑さに強い新品種の開発現場」を取材してきました。

新米コシヒカリの品質検査と干上がった田んぼ.jpg

<水不足で干上がった田んぼ㊧、新米コシヒカリの品質検査㊨>

「極早生」新品種開発の動き

新潟県は高温耐性を持つコシヒカリや、8月中の収穫が可能な「極早生(ごくわせ)」の新たな品種開発に取り組んでいます。舞台は新潟県農業総合研究所作物研究センター。「コシヒカリBL」や「新之助」など、新潟を代表するコメを開発してきました。新たな品種を作り出す「交配」を行い、候補を選んでいきます。2009年から人工交配を重ね、多くの種類の中から、2024年度に「新潟135号」と呼ばれる新品種の候補が選ばれました。「新潟135号」は高温耐性を持ち8月中の収穫が可能で、食味は「こしいぶき」並みに優れるとの評価を受けています。今年は県内農家の協力を得て、展示用に13カ所の田んぼで「新潟135号」を作付けし、周知を図りました。この夏は新潟県内も記録的な暑さとなりましたが、収穫された「新潟135号」は9月29日の時点で、全て1等米だったということです。新潟県は、一定の高温耐性が証明されたと分析しています。

新潟県は「極早生」の品種を作る理由として、異常気象への対応や農家の作業の分散をあげています。新潟県でも農業の大規模化が進められていて、主力のコシヒカリより早く収穫できる品種があれば、作業や機械の分散につながり、収穫量の増加が見込まれるとしています。また、収穫時期がずれることで猛暑や水不足のリスク分散につながるといいます。新潟県は「新潟135号」について、2026年産から一般栽培を始め、販売も予定しています。今年中に、国に品種登録の申請を提出する予定で、花角英世知事は名称を公募すると発表しました(締め切りは10月6日)。

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<「新潟135号」の苗㊧、人工交配の様子㊨>

コメ価格高騰 新潟県内の受け止めは

この夏は猛暑や水不足の影響で、コメの品質低下が心配されましたが、新潟県内の農家が過去の教訓を生かして、肥料のタイミングや回数などを工夫したこともあり、今のところ各JAが示しているコシヒカリの1等米比率で、大幅な低下は聞こえてきていません。一方で、コメの価格高騰は続いています。新潟県内の直売所やスーパーでは、新米が店頭に並んでいますが、5キロ5,000円前後と昨年に比べて1,000円以上高くなっているケースも珍しくありません。コメの集荷競争も激しさを増していて、JA全農にいがたは新潟県産コシヒカリの仮渡し金を、過去最高となる3万円に設定し(当初)異例の引き上げを行いました。理由として生産コストの上昇に苦しむコメ農家の支援などをあげていますが「仮渡し金を上げないとコメを出荷してもらえない」と担当者からは本音も聞こえてきます。

JAへの出荷を主とする農家からは「天から何か降ってきたみたい」と驚きの声が上がりました。JA以外の業者と直接取引する大規模農家は「今までではあり得ない買取価格を提示されている」と証言しつつ「集荷競争の過熱でコメの価格が上がり、消費者が離れる方が怖い」と冷静に受け止めていました。

消費者からは新米について「高くて手が出しづらい」という声が上がる一方で、備蓄米が店頭に並んだ時は行列ができ「安いのは助かる」という声も多く聞きました。高価格のコメを求める層と低価格のコメを求める層に分かれ、消費者のニーズも二極化していると感じます。

持続可能な農業へ

そもそも‟令和のコメ騒動"はなぜ起きたのか。そのような兆しが見られなかった中で「猫の目農政」と揶揄されてきた一貫性のない国の農業政策のツケ、しわ寄せが今出ているように感じます。国は減反廃止と言いながら実際は「必要以上に作らせない」生産調整を続けてきたわけで、異常気象がその政策の限界を露呈させたとも言えると思います。

しかし、農家に聞くと「急に増やせと言われても、そう簡単ではない」という答えが大半です。飛び地で農地を引き受ける大規模農家は「かえって効率が悪くなり、コストが上がる」と悩みを打ち明けます。担い手不足が叫ばれて久しい農業の世界で、大量生産に転換することが可能なのか、明確な道筋は見えていません。複雑に絡み合った課題を一つ一つ解き明かし、官民が一体となって本気で解決方法を考えていかなければいけない段階にきていると思います。

簡単なことではありませんが「持続可能な農業」を実現にするには、消費者の関心が高い今がチャンスなのではないでしょうか。今後、目まぐるしく変わるであろう農業の現場に足を運び、国内有数のコメどころ新潟で今何が起きているのかを見定め、複数の農家や卸売業者、消費者の声を通じて多角的な報道につなげていきたいと考えています。

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