「クレヨンしんちゃん」アニメ放送30周年 常に攻めの姿勢忘れず

佐野 敬信
「クレヨンしんちゃん」アニメ放送30周年 常に攻めの姿勢忘れず

今年で「クレヨンしんちゃん」はテレビアニメ放送開始30周年になります。毎週土曜日の夕方に放送しているテレビ放送以外にも、年に1回公開している映画や雑誌で連載されている漫画などがあり、それらがDVDや配信、コミックスなどになって日本のみならず海を越えて世界中の人に楽しんでいただいています。このように本当に多くの方に愛されてきている作品なので、担当になってわずか3年の私が何かを語るのはいささかおこがましいという気持ちがあるのですが、せっかくの記念すべきタイミングということで、野原家の歴史の10分の1を知る人間として今の「クレヨンしんちゃん」について感じていることをお伝えさせていただきます。

根幹にあるのはあくまでお笑い

まず、「クレヨンしんちゃん」は5歳児・野原しんのすけの日常を描いた「ギャグ作品」です。何をいまさら当たり前のことを? と思う方がいるかもしれませんが、私のように大人になってから「クレヨンしんちゃん」に触れた人の中には、しんちゃん=感動できる作品というイメージが強い人も多いと思うのです。実際、感動要素のある話を放送した日にはいつもよりもSNSでの反応が良いですし、映画についてはありがたいことに「大人も泣けるしんちゃん映画」みたいな評判も定着しています。そのため、制作チームもうっかり感動路線を目指してしまいがちなのですが、テレビアニメの監督を務めるムトウユージさんをはじめ長年作品に関わっているスタッフは「しんちゃんは笑いが根幹にあることは忘れてはならない」とよく口にします。お調子者のしんのすけが繰り広げる笑いに溢れた日常があるからこそ、たまに違う側面を見て視聴者が感動してくれるのだと知っているのです。不良がたまに良いことをすると評価される、というのに近い現象でしょうか。この点は事あるごとに自分も意識するようにしています。そして、その大切な野原家の日常を最も皆さんに感じていただく機会が、毎週のテレビ放送だと考えています。

「クレヨンしんちゃん」の特徴の一つが、「今」を反映していることです。最近父のひろしは自宅でテレワークをしていますし、友達の風間くんは幼稚園児なのにスマホで情報を調べたりしています。しんのすけの当初好きだった女性が小宮悦子さんだったのは有名な話ですが、その後時代とともに何人も変わっています。このように野原家の日常は最新の情報にアップデートされていきますが、そこに犯罪や事故などネガティブな要素がなるべく入り込まないように意識しています。実際の世の中はコロナ禍でも、作品の中の人物はマスクをしていません。「クレヨンしんちゃん」のベースにあるのはあくまでお笑いであって、見た人に楽しい時間を過ごしていただくことが目的だからです。

信用があるから「毒」送り出せる

「クレヨンしんちゃん」に「毒」を期待している人も多いと思います。しんのすけはさすがに最近は「ぞうさん」をしなくなりましたが、それでも放送初期から現在まで30年間、親のひろしとみさえだけでなくお茶の間の視聴者まで困らせるような過激なギャグを連発しています。放送で攻めた演出をした際には、放送後によく周囲から「あれはしんちゃんだから許されるよね」などと言われますが、この免罪符こそしんのすけが30年かけて勝ち得た信用だと思います。しんのすけが人前でおしりを出す行為は、今や「お約束」と認識されるレベルまで皆さんに浸透しました。母のみさえのことを「ケツデカ」や「三段腹」と言ってもほほ笑ましいのは、この母子の間にある溢れる愛情をみんなが知っているからです。このような信用があるからこそ、「クレヨンしんちゃん」は皆さんに「毒」を送り出すことができるのです。

そんな長い間皆さんに愛されてきたしんのすけが、なんと野原家の子どもじゃなかった? という衝撃的な展開で始まるのが、4月22日公開の映画最新作「もののけニンジャ珍風伝」です。昨年の夏に公開された「謎メキ!花の天カス学園」は、本格風? 学園ミステリーとしてしんのすけが友達と謎を解決するという子どもたちに焦点を当てた作品でしたが、今回のテーマは家族の絆。日本一有名な5歳児を通じて、全国の親子に家族のあり方を問いかける渾身の一作です。もちろんギャグとアクションもてんこもりです! 映画は一度テレビ放送から離れてしまった「クレヨンしんちゃん卒業生」たちも、また別モノということで親子のイベントやデートムービーとして見てくれる機会ですので、子どもから大人まで飽きずに楽しんでいただける作品を毎年お届けしたいと考えています。これを読んでいる「クレヨンしんちゃん」ファンの方はもちろん、しばらくしんのすけから離れてしまっている方も、しんのすけに触れたことのない方も、皆さんぜひゴールデンウィークには劇場に足を運んで、しんのすけと楽しい時間を過ごしていただければと思います。

映画以外にも30周年の今年はまだまだたくさんの仕掛けをご用意しています。永遠の5歳児・しんのすけはこれからも常に攻めの姿勢を忘れず、皆さんに笑いと毒を送り出し続けていきますので、ご声援よろしくお願いいたします。

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