「懐かしさ」に浸っている場合ではない! ――『宇宙戦艦ヤマト』の半世紀とこれから

増當 竜也
「懐かしさ」に浸っている場合ではない! ――『宇宙戦艦ヤマト』の半世紀とこれから

先ごろ(2024年10月)、庵野秀明監督が『宇宙戦艦ヤマト』50周年を迎えた節目として、自ら新たな『宇宙戦艦ヤマト』を劇場用映画として製作することを公表した。これまで『ゴジラ』や『ウルトラマン』『仮面ライダー』など自身の創作の原点たるコンテンツを現代にリライトさせてきた彼、実は『宇宙戦艦ヤマト』の熱狂的なファンであり、かつて読んだインタビューの中には「すべての台詞をソラで言える」ほどの思い入れがあるようだ(冒頭画像は庵野秀明と出渕裕の共作による50周年記念ロゴ/© 東北新社・著作総監修 西﨑彰司

庵野に限らず今の還暦前後のクリエイターには、若き日に「ヤマト」の洗礼を受けた者が数多い。では『宇宙戦艦ヤマト』とは一体何だったのか、少しばかり検証していこう。

1970年代アニメブームの先鞭に

『宇宙戦艦ヤマト』はまず1974年10月から75年3月までのテレビシリーズが毎週日曜19時半より読売テレビを発局に日本テレビ系で全国放送されたが、当時は裏番組に『アルプスの少女ハイジ』(74年、フジテレビ系)、『猿の軍団』(74~75年、TBS系)などがあり、視聴率的に苦戦して全39話の予定が26話に短縮されて終了。しかし、この時期のテレビ番組(特にアニメや特撮ものなど)は再放送が盛んで、そこで「ヤマト」は徐々に人気を獲得し、プロデューサーの西﨑義展はファンへの感謝として総集編の劇場用映画を企画して1977年夏に公開したところ、これが思わぬ大ヒットとなり、以後日本国中に空前のアニメーション・ブームが巻き起こっていく。

これには当時の大人たちが知らない1970年代テレビアニメーションの隆盛という事実が存在し、例えば『科学忍者隊ガッチャマン』(72~74年、フジテレビ系)、『海のトリトン』(72年、朝日放送系)、『ルパン三世(第1シリーズ)』(71~72年、読売テレビ系)など優れたアニメーション作品が当時は続々と発表されては少年少女らの支持を得続け、そのどれもがブームの導火線になってもおかしくない状態ではあったのだ。

それらの中で「ヤマト」が頭ひとつ抜き出ていたのは、その内容が同じSFでも従来の勧善懲悪ロボット・アニメなどと比べて大人びたオーラがあったこと、あと1年で地球が滅びるというタイムリミットの中で遥か宇宙の彼方イスカンダルまで旅を続けるというロード・ムービー的進行がもたらす宇宙のロマン、SFと軍隊ものの調和がとれた松本零士のキャラクター・デザインも魅力的で、さらには宮川泰の洗練された音楽の数々も少年少女を虜にした。

関連グッズやアニソン、声優ブーム

また1977年は米国で『スター・ウォーズ』が公開されて世界的ブームを巻き起こした年でもあり(ただし日本での公開は1978年初夏)。それに便乗して日本映画界も『惑星大戦争』(77年)、『宇宙からのメッセージ』(78年)など実写特撮SF映画を発表するが、マニアックな評価こそあれ一般的な支持を受けるに至ってない。しかし同年8月に公開された「ヤマト」の続編映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』は、それこそ『スター・ウォーズ』に対抗し得る唯一の日本コンテンツとして前作以上の大ヒットをもたらした。

このとき既に作品のグッズ・ビジネス展開も図られるようになり、日本中の少年少女が「ヤマト」の缶バッジや筆箱、下敷きなどを持って学校に現れるようになる。それに即して都市部ではアニメショップが続々と開業、地方のファン向けには通信販売、またアニメ雑誌の創刊ラッシュもなされ、そこでアニメ声優たちが大きくクローズアップされて今に至る声優ブームも確立されていく。

「ヤマト」の声優に関しては敵役デスラー総統の声を担当した伊武雅刀(当時は雅之)が同時期に所属していた過激なヴォイス・パフォーマンス・ユニットによる「スネークマンショー」でブレイクし、「ヤマト」ファンからの支持も得る。

主題歌に人気アーティストを起用するのも『さらば』からで、ここでは沢田研二によるエンディング曲『ヤマトより愛をこめて』も大ヒットし、現在のアニメソング・ブームの先駆けとなった。

『さらば』は大ヒットしたがゆえに、敵に体当たりするラストを「特攻礼賛」「軍国主義的」などと、激しく非難する声もあった。ただし多くの大人たちは国産テレビアニメ・シリーズ第1号『鉄腕アトム』(1963~66年、フジテレビ系)の最終回以降、業界内で"ジャリ番"(子ども向け番組の俗称)などと蔑まれてきた子ども向け番組の中で特攻や自己犠牲が多く描かれていたことを知らない。対して幼い頃からそういった作品と自然に対峙してきた少年少女の多くは、『さらば』のラストも当然ながら何の違和感もなく受け入れることができたのだ。

パラレルワールドを楽しむ

実は当時の「ヤマト」ファンにとってそれ以上に論議を巻き起こしたのは、『さらば』をベースに展開される同年秋からのテレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマト2』(78~79年、読売テレビ・日本テレビ系)のラストでヤマトが地球に生還してしまったことである。これによって映画とテレビとでパラレルワールドが発生し(実は77年の劇場版も初公開「スターシャ死亡編」とその後の改定版「スターシャ生存編」が存在する」)、さらには『2』の続編であるテレビムービー『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』(79年、フジテレビ系)に続く新作を映画『ヤマトよ永遠に』(80年)で、さらなる続編をテレビシリーズ『宇宙戦艦ヤマトⅢ』(80~81年、読売テレビ・日本テレビ系)として発表。こうした流れの中で、「ヤマト」のファンは『さらば』を完結とする派と『2』以降を支持する派と大きく分断した。(もっとも『さらば』支持派もヤマトの新作が作られると聞くと"パブロフの犬"のごとくブツブツ文句を言いながら鑑賞してしまう者も続出......私のことだ)

現在ではこうしたパラレルワールド感覚でテレビと劇場版の内容が異なる作品は数多く存在して久しいが、そもそもその先駆的存在が「ヤマト」だったといえる。当時はまだそれを許容するだけの認識が見る側にも欠けていたように思うが、さすがにこの後『さらば』が「ヤマト」の正史から外れて、一時期、黒歴史扱いされるようになったのは『さらば』派の怒りを買った。

「ヤマト」という言葉の響き

また『さらば』以降の「ヤマト」は自己犠牲の数々を美しいものとして肯定的に描くようになり、そのフックとして「愛」を多用するようになっていく。映画『宇宙戦艦ヤマト完結編』(83年)では劇中「どうして地球人は他人のために死ぬの?」「それが美しいことだからよ」といったセリフまで出てくる。

しかし1980年代以降、既に国内のアニメーションは『機動戦士ガンダム』シリーズ(79年~)に代表される「戦争に善悪など存在しない」といった非情な側面を訴える新作が多数輩出されるようになっており、それに比べて「ヤマト」のシリーズは作画など技術的クオリティの高さと反比例するかのようにアナクロニズムが増長。結局『完結編』を最後の賑わいとして、以降のシリーズの流れは中途半端なものになっていった。

それでも時折『宇宙戦艦ヤマト』と聞くと、1970年代当時の盛況を知る者としては、やはり心ときめいてしまう。それにはあれこれ理由づけする以前に、何よりも「ヤマト」という日本人のDNAを刺激する言葉の響きにあるような気がする。また初期に「ヤマト」を用いてコンテンツビジネスを始めた大人たちの多くは太平洋戦争を知る世代であり、そのとき日本海軍の象徴とされながら、さしたる活躍もできぬまま海に沈んだ戦艦大和が宇宙戦艦ヤマトとして地球を救うという設定に、ジャリ番意識を超えた理想の念を抱いたのではないだろうか。

私自身、テレビ第1シリーズを見たのは小学校5年生だったが、当時アニメが始まると即チャンネルをNHKに替えていた戦中派の父も(当時はテレビが一家に一台しかない時代で、チャンネル権は父親が握っていた)「ヤマト」に関しては「このアニメは良い」と鑑賞を許してくれていたのが不思議だった。

「ヤマト」のブームは当時の少年少女たちによる自然発生的な要素が大きかったと認識しているが、そこに大人たちがビジネスとして介入できたのは、やはり「ヤマト」という響きに対するシンパシーが心の奥に潜んでいたからで、SNSもケータイもない時代、子どもたちだけであの時期あれだけのブームを築くことは不可能であったと思う。そして大人たちの思惑に子どもたちが進んで乗っかっていくことでウィンウィンの関係が成立し、その後のアニメコンテンツ・ビジネスの礎になっていったことも事実ではあろう。

さて、『宇宙戦艦ヤマト』シリーズは「ヤマト」の生みの親・西﨑義展が死去した後、現在はその遺志を継いだ西﨑彰司が、オリジナル・ヤマト・シリーズを現代の感性と技術でリメイクした新シリーズが2012年からスタートしている(24年11月には『ヤマトよ永遠に』と『宇宙戦艦ヤマトⅢ』の要素を組み合わせた『ヤマトよ永遠にREBEL3199』の第二章『赤日の出撃』が上映中)。これらは当時のシリーズを見て育った現代屈指のクリエイターたちによる新たな「ヤマト」として注目を集め続けている。

「ヤマトか、何もかも皆懐かしい......」などと回顧に浸っている場合ではない。庵野秀明の新作も含め、「ヤマト」の発進はまだまだこれからも続くのである。


【関連情報】

 12月27日から『宇宙戦艦ヤマト』放送50周年記念セレクションを全国で上映

2024年12月27日(金)~25年1月16日(木)、東京の新宿ピカデリーほか全国42館の映画館で『宇宙戦艦ヤマト』TVシリーズ全26話から庵野秀明氏が3プログラム×各3話にセレクションし、各プログラム1週間ずつ限定上映する。鮮明に蘇ったHDリマスター版は劇場初上映となる。詳しくはこちら(外部サイトに遷移します)から。(編集広報部)

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© 東北新社・著作総監修 西﨑彰司

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