このたびは、誠に栄えある賞を賜り、心よりお礼申しあげます。今回の受賞は、私たちが長年取り組んできた技術開発と、その社会的価値を評価いただいた結果であり、大変光栄に存じます。関係者の皆さま、そして本プロジェクトを支えてくださった方々に、あらためて深く感謝申しあげます。
今回評価いただいた本システムは、「誰もが簡便に高品質な3DCGを制作し、多様なコンテンツに活用できる」ことを目指して開発しました。これまで3DスキャンによるCG制作には、LiDARなどの専用機材や専門技術者の立ち会いが必要で、制作には数週間を要するなど、高いハードルがありました。私たちの開発した本システムでは、一般的なスマートフォンで撮影したわずか10分程度の映像から、光の反射に特化した機械学習を応用した「3D Gaussian Splatting(以下3DGS)」により、高精度な3Dモデルを全自動で生成できます。これにより、従来のワークフローを根本から見直し、誰もが気軽に3DCG制作に取り組める環境を実現しました。さらに、制作した3DCGを放送現場で即時に活用できるよう、リアルタイムCGや編集システムとの連携も可能とし、周辺技術の内製化にも取り組みました。結果として、これまで専用ソフトでしか確認できなかった3DCGを、放送用の各種システムとシームレスに連携できるようになりました。
この技術革新により、3DCGの活用範囲は飛躍的に広がっています。たとえば五輪中継では、競技会場紹介用のCGはこれまで図面の入手から制作までおよそ1カ月を要するため、開催日近くまで情報が非公開の競技に関してはCGで再現できませんでした。本手法を用いることで、競技用クライミングウォールの複雑な構造を現地撮影から短期間で実寸大再現し、スタジオにリアルタイムで合成し表示させました。視聴者にかつてない臨場感と視覚的説得力を提供できました。
さらに、視聴者が立ち入れないコース内部を含む競技会場全体を3D化し、選手目線でコースを体験できる映像も実現。これにより、まるで会場を歩いているかのような没入感を提供できるようになりました。加えて、編集システムとの連携により、現地ディレクターが撮影した映像から3DGSを用いて生成された3DCGを編集担当者が即時に制作に活用できる新たなワークフローを確立し、CG制作のハードルを大幅に下げることに成功しました。
災害報道の分野でも、本技術は重要な役割を果たしています。2024年1月1日の能登半島地震では、震度7の揺れにより石川県輪島市の朝市通り周辺で大規模火災が発生し、約240棟が焼失しました。被災直後の状況を記録する手段が限られ、震災遺構の保存や伝承が困難な中、地元被災者の思いを受け日本テレビ報道局と技術チームは、本システムを用いた3D記録プロジェクトを立ち上げました。
現地では専用機材による大規模スキャンが難しく、記者がスマートフォンとドローンを駆使して2日間にわたり撮影を実施。朝市通り(全長約360m)を含む計22カ所の震災遺構を3D化し、従来では不可能に近かった広域かつ詳細な立体記録を短期間で実現しました。さらに、特殊なデータ形式である3DGSをウェブ上で閲覧可能にする専用ビューワーを実装・公開することで、映像だけでは伝えきれない被害の広がりや深刻さを視聴者が体験的に理解できる形で発信しました。こうした立体可視化は、防災・減災の啓発にもつながっています。
今後は、教育・記録・文化財保存・観光など、さらなる分野への応用も視野に入れています。誰もが使いやすく、身近な存在として本システムが多様な場面で活用されていくことは、開発者としてこの上ない喜びです。本受賞は、技術の先進性だけでなく、映像制作の新たな可能性を社会に提示できたことへの評価であると受け止めています。これからも現場の声に耳を傾け、より使いやすく、創造性を支えるコンテンツ制作ツールの開発を続けてまいります。
■輪島の記憶を遺す 3Dで知る能登半島地震(日本テレビ放送網)
・全部門の「審査講評」および「最優秀受賞のことば」はこちらから。
・審査結果はこちらから。
日本テレビ放送網 技術統括局制作技術部
戸部 雄輝(とべ・ゆうき)
2021年日本テレビ放送網入社。生放送の収録・編集・送出の運用・管理、番組制作における素材管理システムの開発・運用、新技術開発・導入に従事。
日本テレビ放送網 技術統括局コンテンツ技術運用部
岸 楓馬(きし・ふうま)
2022年日本テレビ放送網入社。スポーツCGやリアルタイムCGシステムの運用・管理、新技術開発・導入に従事。