遠藤龍之介会長インタビュー 「発想力がある限り、テレビやラジオの未来は明るい」

編集広報部
遠藤龍之介会長インタビュー 「発想力がある限り、テレビやラジオの未来は明るい」

6月10日、民放連会長に就任した遠藤龍之介氏(フジテレビジョン副会長)。テレビ・ラジオ離れ、動画配信サービスの台頭などにどう立ち向かっていくか――。明るい人柄のにじむ語り口の中に、根っからの放送好きならではの強い信念が感じられました。


――小さい頃、どんな番組に触れていましたか
私は1956年生まれで、物心ついた頃は『鉄腕アトム』(フジテレビ)や『エイトマン』(TBSテレビ)といったテレビアニメの黎明期だったような気がします。もう少し大きくなってからはプロ野球中継とかプロレス、バラエティだと『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』(日本テレビ)や『ラブラブショー』(フジテレビ)などを覚えています。当時はラジオの深夜放送が最盛期で、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)、『セイ!ヤング』(文化放送)、『パックインミュージック』(TBSラジオ)の三大深夜番組には影響を受けましたね。中でも『オールナイトニッポン』のDJだった糸居五郎さんは、新しい音楽や外国の音楽をどんどん紹介していたので、憧れて聴いていました。その流れが山下達郎さんの『サンデー・ソングブック』(エフエム東京)に引き継がれている気がして、よく聴いています。当時は紹介された曲のレコードを探して新宿の中古レコード屋を訪ね歩いたものですが、今でもそんな習慣が抜けなくて、CDを探して御茶ノ水あたりのお店をうろうろしています。放送業界での仕事を引退したら音楽雑誌に評論を書くのが夢なのですが、どこか使ってくれませんかね(笑)。


――将棋がお強いと聞きました
学生の頃からやっていますが、考える習慣みたいなものを身につけるには良かったと思います。将棋では自分のスタイルを棋風と呼ぶのですが、私は攻めるより「受け」の意識が強いかもしれないですね。それは仕事にもつながっているように思います。危機管理の仕事が長かったこともありますが、悪い状況をイメージして、そこから考え始めるケースが多いかもしれません。


――学生時代は映画の助監督のアルバイトをされていたとか
映画会社への就職を考えたのですが、当時は新卒採用がなかったのでテレビ局に入社したという次第です。『ミュージックフェア』などの音楽番組の担当を希望しましたが、叶いませんでした。実は今からでも担当できないか、と密かに考えています(笑)。私は42年間のサラリーマン生活の中で、11回も部署を異動しているんです。多くの職場に必要とされたのか、それとも必要とされなかったのか......(笑)。中でも編成部が長く、編成部長も務めました。印象に残るのは、広報部長としてライブドア(当時)による経営権奪取の動きがあった際に記者対応を行ったことでしょうか。ただ、放送局というのは、部署が違うと仕事そのものが全く異なりますし、関わる人も変わってくる。どの会社でも多少なりともそういうところがあると思いますが、放送局は特に顕著で、まるで別会社に就職したような感じがします。端的に言うと飽きない職場、多様性のある面白い企業体だと思いますね。

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――放送局で働くうえで大切にしてきたことは
フジテレビの社長就任の際、社員に向けて「面白いことの一番そばにいて時代の風を読んでほしい」と話しました。世の中が面白いと思っていることが、結構移ろっているような気がしています。その時代ごとの面白さみたいなものをつかみ続けていくことをいつも心にとどめておかないと、どこかでそれが自分の手からすり抜けてしまう。自戒の念も込めて、そんなことを考えています。


――あらためて民放連会長就任に際する抱負を
まず取り組みたいのは、放送の価値を最大限に高め、それを社会に広く伝えることです。価値を高めるだけでなく、それを多くの方々に知っていただくことも大事です。どうしたら放送の価値が高められるのか――これについては3つ申しあげたい。1つ目はコンテンツを送り出すインフラなど技術の変化に柔軟に対処していくこと。2つ目は放送の信頼性の堅持。そして3つ目は放送の多様性です。多様性というと番組の多様性を想起しますが、それは各社が努力している部分なので、民放連が担うのは放送を取り巻くさまざまなルールの見直しや、放送コンテンツの拡大のための各種トライアル、権利者団体との新しい関係の構築などではないでしょうか。全体を俯瞰して、メインエンジンとなってがんばりたいと思っています。


――就任会見では「民放各局が力を合わせて」という言葉が印象的でした
「協調領域」という表現も使いましたが、あらゆる業界がコンテンツ産業に多数参入している中で、ローカル局の将来を考える場合、民放が一丸となって考えなければならない事案が増えていると感じています。もちろん、切磋琢磨すべきところはするのですが、一緒に考えていかないと立ち行かない部分に民放連として取り組んでいこうと思います。


――放送が視聴者・リスナーから信頼を得るためには
フェイクニュースが問題となっていますが、特に報道・情報系の番組において、民放各社が視聴者・リスナーの信頼を裏切らないことが大事だと思います。もちろんエンターテインメントにおいても同様に配慮が必要ですし、その積み重ねが信頼につながると考えています。放送界では信頼を得るための取り組みとしてBPO(放送倫理・番組向上機構)を設置しています。BPOはその機能を十分果たしていると認識していますが、その活動が放送界以外の方々にどのように理解されているのかを考えることが必要です。BPOに寄せられる視聴者・リスナーからの意見について、真摯に受け止めたいと思っています。


――放送コンテンツの配信については
各局が取り組む配信事業だけでなく、OTTなど各種動画配信サービスやBSを中心とした高精細テレビの普及など、テクノロジーの進歩で新しいサービスやデバイスが登場し、これに伴う課題も顕在化しています。各論としてこれらに是々非々で対応していくことは必要ですが、総論としてはテクノロジーの進歩にはあらがえないし、また、あらがってはいけないと思います。配信事業はビジネスとして確立させることが重要で、そのために各権利者団体等との間でお互い納得できるルールの整備が大事だと考えています。

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――多くの事業者がテレビ画面を奪い合う中で、放送が選ばれるために必要なものは
コンテンツは制作する人たちの考え方の発露ですから、その裏側には制作した人の意識や感性などが見え隠れするものです。例えば、報道・情報系の番組であれば取材の際の誠実さが求められるし、エンターテインメントであれば面白さの分析や追求といった意識を持ち続けることが必要です。今の若い人はネットばかり見てテレビは見ないとか、若者のテレビ離れが指摘されていますが、視聴者はこのデバイスだから見ようとか、このデバイスだから見ないという意識は持っていないと思うのです。とてもシンプルなことですが、面白ければ支持される、面白くなければ背を向けられる、それだけのことです。そのコンペティターが30年前に比べるとあまりに多くなったので、今の制作者は本当に大変だと思います。いろんなデバイスで自分の作品が視聴者・リスナーに受け止めてもらえるメリットもあるので、ぜひがんばってほしいですね。


――NHKとの関係は
NHKと連携していく領域は増えていくと思います。ただ、二元体制という言葉があるように、民間放送とNHKは基本的な部分で違いがあるので、丁寧に対話させていただきながら進めていきたいと思っています。


――放送というメディアの未来像をどのようにお考えですか
さまざまなコンペティターが登場しており、私たち放送事業者との厳しいレースは当面続くでしょう。これまでの勝つべき方程式と、これだけ混迷を極めている中で抜け出すための方程式は当然違うので、答えを探し続けていくことが求められます。ラジオのタイムテーブルを見ると、タレントの起用方法などアイデアに満ちていて学ぶことが多い。テレビもそういった新しいアイデアを出し続けていかないといけない。発想力がある限り、テレビやラジオの未来は明るいと思います。「受け手」にとってデバイスは関係なく、面白いコンテンツを発信していけば必ず視聴者やリスナーはついてくるはずです。クリエイティブの力さえあれば、この業界はまだまだ悲観することはないし、明るい未来が待っていると信じています。自分たちが自ら「放送業界は将来大変だ」と悲観的になるのではなく、前向きに明るくこれからのことを考えていきたいですね。

(2022年6月22日、民放連にて/取材・構成=「民放online」編集長・古賀靖典)

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