8月20日中央審査【参加/121社=121本】
審査委員長=鏡明(評論家、元電通顧問、ドリルエグゼクティブ・アドバイザー)
審査員=市川紗椰(モデル、タレント)、城戸久枝(ノンフィクションライター)、布施英利(美術批評家、東京藝術大学教授)
※下線はグランプリ候補番組
本年のテレビ教養番組の中央審査に残った番組は力作ぞろいであった。それだけではなく、各地域の特色が出ていたことが、素晴らしい。扱うテーマにはやや偏りがあった。難病の患者そしてがんの患者とその家族を扱った番組が3作あった。もちろん偶然であるが、そのテーマをいかに扱うか、それぞれの局の個性が感じられて、興味深かった。
最優秀=北海道テレビ放送/HTBノンフィクション「生ききる ~俳優と妻の夜想曲(ノクターン)~」(=写真)
がんで余命わずかと宣告された札幌の演劇人の夫。頑固に自分の生き方にこだわる夫を支えながら、自分も俳優として生きようとする妻。二人の葛藤は、極めて特殊なものに見えるが、そこにあるのは高齢化社会の日本における普遍的な問題でもある。深刻になりがちな問題を、自然な形で描き出すことに成功したのは、ディレクターが二人の長年の友人だからだろう。作り手と被写体との近い関係はローカル局だから可能なことだ。そして見終わった後まで残る温かさ、最優秀にふさわしい素晴らしい仕事だ。
優秀=テレビ東京/日曜ビッグバラエティ テレビ東京開局60周年特別企画 日本⇔南極35000km!南極観測船 "しらせ" に乗せてもらいました!
南極観測船に151日間同乗するという意欲的な企画。流氷群を、氷を砕きながら進むシーンは初めて見ることができた。圧巻である。この企画をバラエティとして扱うというのは、いかにも民放的であり、期待もしたのだが、うまく機能しているようには見えなかった。自然の素晴らしさと凄まじさに焦点を絞ってもよかったのではないか。教養番組としてのバラエティをいかに成功させるか、新たな方向を期待したい。
優秀=静岡放送/笑って生きる一生~私が活きる場所~
ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病と闘う女性が、自分のためにケアサポート施設を作る。サポートされる側がサポートする側でもあるという発想が素晴らしい。福祉に対する新しい視点がここにある。そしていかなる時にも笑顔を絶やさない主人公の生き方に感銘を受けた。笑顔は人に勇気を与えるということが実感としてわかる。
優秀=富山テレビ放送/雲上の除雪隊~アルペンルートの春~
山に降り積もった雪に埋もれた道を掘り起こす作業に取り組む人たちの姿を描く。ローカルな話題であるが、この地味な作業が生み出す美しい風景に心が奪われる。重機という無骨な道具によって切り出されていく光景は、雪という自然とそれに取り組む人の技術がもたらす芸術というべきものだ。完成度も高く、評価すべき仕事だが、字幕スーパーの読みにくさについての指摘があった。
優秀=サンテレビジョン/証言1.17~被災局のあの日 そして未来へ~
1995年の阪神・淡路大震災を被災地のテレビ局がどのように対応し報道したか、それを記録に残すという試み。局員たちが被災者でありながら、いかに被災の状況を伝えるか、その使命感がこの記録番組を成立させている。報道機関が被災者視点で報道するという例は少ないのではないか。そして現地の被災者が最も必要としていたのは、シンプルな画面の文字情報であったというのは、これからのメディアの方向を示唆している。
優秀=中国放送/ヒロシマの記録- "地上の地獄" は映像に遺された-
原爆投下後2カ月後に日本映画社によって撮影された記録映像を取り上げた作品。検閲による没収を避けるために、客観的、科学的に撮影にあたったというが、その姿勢が原爆の悲惨さをリアルに伝えることになった。映像にある情景と現在の情景を重ね合わせる手法も効果的。映像の一部がAIでカラー化されたことがこの番組のきっかけになったというが、できれば全てカラー化された映像を見たかった。
優秀=鹿児島テレビ放送/負ケテタマルカ!!
2007年、悪性の脳腫瘍で亡くなった少年の家族、その周辺の人々のその後も含めて20年間を追った作品。この努力を継続させたスタッフに敬意を表する。この少年が残した絵の素晴らしさが多くの人に感動を与えたこともよくわかる。20年という時間を生きた人々の現在の姿は、そこに新たな出発があることを予感させてくれた。よく考えられた仕事だ。一つ違和感を覚えたのは、病室における少年の臨終の光景を映したことだ。この番組の本来の目的とは関わりのないシーンだ。そこまでの必要があったのか、一考を促したい。
審査では毎年地域のテレビ局の力を感じさせられることになるが、今回は特に地域性の素晴らしさを強く感じた。こうした地域性に満ちた作品は、その地域だけではなく全国の視聴者に届けられるべきものだ。いい方法があればと思う。