【最優秀受賞のことば】文化放送 文化放送開局記念 昭和100年スペシャル「ドンとモーグリとライオンと ~やなせたかし 名作前夜」(2025年民放連賞ラジオ教養番組)

豊澤 佑衣
【最優秀受賞のことば】文化放送 文化放送開局記念 昭和100年スペシャル「ドンとモーグリとライオンと ~やなせたかし 名作前夜」(2025年民放連賞ラジオ教養番組)

「やなせたかし」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか? 『アンパンマン』? 『手のひらを太陽に』? ほかにもたくさんあるでしょう。

漫画家、絵本作家、詩人、編集者、デザイナー......。エンターテインメントのさまざまなシーンで活躍したやなせたかし先生は、「困ったときのやなせさん」とも呼ばれるほどのマルチクリエイターでした。ただ、これだけたくさんの肩書きを持つなかでこれまでほとんど明らかになっていなかったのが、「ラジオ作家」としての姿です。かくいう私も、幼い頃からアンパンマンを愛し、各地で開催されるショーにも足を運んでいましたが、全く知りませんでした。

やなせたかしと文化放送
2024年の春、文化放送の倉庫に入れたまま「開かずの箱」と化していた段ボール106箱を20年以上ぶりに整理することに。そこに詰まっていたのは1952~88年にかけてのラジオドラマ台本や社内資料など計909点。そのなかでもひときわ目を引いたのが、「やなせたかし」書き下ろしのラジオドラマ台本でした。

やなせ先生と文化放送は深い縁で結ばれています。1959年からの数年間、さまざまな仕事と並行してラジオドラマの脚本を制作し、文化放送でも複数のラジオドラマを書き下ろしていました。1981~99年までは文化放送番組審議会委員・委員長を歴任しており、特に文化放送が四谷にあった頃は、やなせ先生の事務所がご近所だったこともあり、頻繫に出入りされていたそうです。

ラジオにあった「名作前夜」
発見された資料の一つに、『めい犬ドン やさしいライオンの巻』というラジオドラマがあります。『やさしいライオン』は後にやなせ先生の代表作となる作品です。『やさしいライオン』は元々、文化放送の依頼で30分版のラジオドラマが書き下ろされ、そこからアニメに映画に絵本にと派生していったことは判明していましたが、今回さらに、それ以前に制作された5分版のラジオドラマ台本が見つかったのです。ほかにも『めい犬ドン アンコ・キッドの巻』や、「ミミズもシラミもオケラも、生きてるものには喜ぶ権利がある。笑う権利がある」といったフレーズなど、あの名作たちにつながるモチーフがラジオの世界に遺されていました。そして、作品の主人公たちは「生きるとは何か」「何のために生きるのか」を私たちに問いかけています。

「正義はある日突然逆転する」――戦争を経験し、やなせ先生はこう語っています。何が本当に正しいことなのか曖昧な世界のなかで、先生の描く作品には「ずっと変わらない正義」がありました。半世紀以上の時を経たいま、やなせ先生の貴重な資料と巡り合えたことは偶然であり必然でもあったと感じています。この番組をきっかけに、エンターテイナーやなせたかしがラジオに遺した軌跡を多くの方に知っていただけたらうれしく思います。最後に、番組制作にご協力くださった全てのみなさまに深く御礼申しあげます。


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