2022年民放連賞最優秀受賞のことば(テレビ報道番組) 石川テレビ放送 日本国男村

五百旗頭 幸男
2022年民放連賞最優秀受賞のことば(テレビ報道番組) 石川テレビ放送 日本国男村

この番組の制作を始めたのは、新型コロナの第一波が猛威を振るっていた2020年4月。未知のウイルスの脅威に、為政者も市民も振り回されていた。社会はいとも簡単に一つの方向に流され、一つの色に染められていく。未知のウイルスにあぶりだされた本質。目の当たりにした「目に見えない空気」。映像化しようと決めた。

人間とは。社会とは。一体何で、これまでどのようなものであって、これからどこへ向かおうとしているのか。時代が進み、テクノロジーが進化し、社会基盤が整備され、生活が便利になった。外形的大変貌を遂げた人間社会。はたして本質はどうか。同調圧力が強い。空気を読むことが美徳とされる。男性が女性を都合よく利用する。異質なものを排除する。そんなムラ社会に変化はあったのか。矛盾だらけを繰り返してきただけではないのか。わかっているのに。知らないふりをして。見て見ぬふりをして。

8期31年務めた中西陽一。728年務めた谷本正憲。石川県は旧自治省出身の知事2人で60年近く県政を牛耳ってきた。この半世紀、石川県民は2人の知事しか知らなかった。

「わかってはいたけど、ここまで酷いとは思わなかった」

「石川県内の放送で知事や国会議員がこれほど滑稽に描かれた番組を観たことがない」

今年5月の放送後に寄せられた県民の声。長年、見て見ぬふりをしてきた地元メディア。番組の取材チームは、県政記者クラブ所属の各局と同じ現場で、各局と違う被写体を狙い各局と同じ被写体を、各局と違う角度や画角で狙い続けた。多くの県民が知ってはいたが、見たことがなかった映像。それを記録するため。

番組は長期権力が内包する矛盾を示し、忖度や同調圧力がはびこるムラ社会の象徴として「県政」を描いた。ムラ社会からはじき出され差別を受けてきた「ムスリム一家」と対比させ、インドネシア人の妻がムラの矛盾をえぐり出す役割を担った。ただ、ムスリムの子どもたちにも信仰については両親に言えないことがあった。歯に衣着せぬ物言いの妻に対し、夫は忖度していた。「ムスリム一家」もまたムラであり、矛盾を内包する。

県政とムスリム。日本人ムスリムと外国人ムスリム。前知事と現知事。四半世紀前の知事選と今年の知事選。四半世紀前の森喜朗と今の森喜朗。対比を重ね、浮かび上がった矛盾の先に見えてくるのは、ムラ社会の二つの「ふへん」性。不変と普遍。矛盾をエンジンに矛盾を繰り返すことで成り立ってきたムラという矛盾。日本国男村は私たちだ。

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