【2023年民放連賞審査講評(グランプリ審査:テレビ)】 問題を自分ごとにする映像の力

滝沢 文那
【2023年民放連賞審査講評(グランプリ審査:テレビ)】 問題を自分ごとにする映像の力

【10月12日審査】
審査委員長=丹羽美之(東京大学教授、テレビ朝日番組審議会委員)
審査員=加藤駿(共同通信社 文化部記者)
最相葉月(ノンフィクションライター、フジテレビジョン番組審議会委員)
澤村厚之(キッコーマン食品 プロダクト・マネジャー室マーケティング統括マネジャー、日本アドバタイザーズ協会テレビ・ラジオメディア委員会委員)
滝沢文那(朝日新聞 文化部放送担当記者)
田中智顕(朝日広告社 執行役員メディア担当、日本広告業協会メディア委員会委員)
三宅令(産経新聞 文化部記者)
目加田説子(中央大学教授、TBSテレビ番組審議会委員)
吉野弦太(弁護士、テレビ東京番組審議会委員)


グランプリ候補に選ばれた作品はいずれも優れており、どの作品にも光る面が確かにあった。「テレビの自画像」として昨年を代表する作品といえる『エルピス―希望、あるいは災い―』(関西テレビ放送)や、街ゆく人にカメラを渡して自らの親を撮影してもらうことで"撮る/撮られる関係"に新展開を感じさせた『こどもディレクター』(中京テレビ放送)などバラエティ豊かな候補作が並び、審査では熱の入った議論が展開された。最終的にグランプリに選ばれた『テレビ静岡55周年記念「イーちゃんの白い杖」特別編』(テレビ静岡)、準グランプリの『こどもホスピス ~いのち輝く"第2のおうち"~』(朝日放送テレビ)は、いずれも重いテーマを扱いながら、取材対象に真摯さに向き合い、前向きな視点を示してくれる作品だった。

『イーちゃんの白い杖』は、全盲のイーちゃんの成長を軸に、重い障害を持つ弟、両親、祖父母も含めた家族を25年にわたって取材している。長年の取材で取材者と一家の間に築かれた信頼関係を感じさせる点、エンターテインメントに昇華した点も高く評価された。暗闇でピアノを奏でるシーンや学校で天井を触るシーンなどは、映像としても深い印象を残した。障害者はともすればステレオタイプになりがちな題材だが、今作ではイーちゃんと家族を多層的に描き出していた。

イーちゃんが人生への苦悩といらだちを吐露するとき、あるいは、恋人との将来を夢見て語るとき、彼女を古くからの友人のように、家族のように感じている自分に気づいた。障害者の大変さを過剰に強調して同情したり、逆に健常者との共通点を探して問題を矮小化したりするのではなく、障害も含めたひとりの人間として存在を受け止めること。多様な人々がともに生きるとは、こうした気持ちをお互いに持つことではないか。

準グランプリは、『こどもホスピス』。大阪市鶴見区にある国内初の民間施設「TSURUMIこどもホスピス」を中心に、こどもホスピスという取り組みについて取り上げた。治療に人生の多くを費やしてきた子どもとその親はもちろん、志を持って施設の運営にあたるスタッフ、施設を支援する人々や海外の事例まで、多角的にバランスよくまとめあげており、多くの審査員が高評価をつけた。

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海外の子どもホスピスに関わったある親が、病気を乗り越えた未来のためにと長く苦しい治療を強いてきたなかで、こどもホスピスに入ってはじめて"いま"を見つけられたと話していた。普遍的なメッセージに多くの人が胸打たれたことだろう。

どちらも、描かれる人々にとって個別・個人的な事柄が、映像が持つ力によって、自分にとっても大切な問題となる番組だった。多くの人に見て欲しいと切に願うし、全国で放送されることに、民放連賞の存在意義を感じる。

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